鹿児島県の最南端、大隅半島からさらに約60㎞の洋上に浮かぶ、世界自然遺産の島「屋久島」。亜熱帯の島でありながら、その中心には1,800m級の険しい山々が連なり、「洋上のアルプス」とも称されている。なかでも主峰の「宮之浦岳」は、標高1,936mを誇る九州の最高峰。山頂付近はなんと北海道並みの気候になり、周囲130㎞の島に日本列島の気候の縮図がぎゅっと凝縮されている。屋久島国立公園の深い緑に包まれた、憧れの頂を目指し、今回は、宮之浦岳登山の様子をリアルにレポートしていきたい。
■淀川登山口から入山
宮之浦岳に最短で登れる王道ルートが淀川(よどがわ)登山口。島の南東側、標高1,360mに位置し、最短でとはいえ、往復で約10時間。休憩を含めるともっと時間を要する長い行程だ。そのため、まだ日の出前の早朝4時半に登山口を出発した。周囲はまだ闇に包まれ、ヘッドランプの明かりだけを頼りに静かな原生林の中へと進んでいく。しばらく進むと「この先から世界自然遺産地域になる」ことを示す看板がある。
そして歩き始めて約40分ほどで、最初のポイントである淀川小屋に到着する。山頂までのルート上で通常のトイレを利用できるのはこの小屋が最後。この先からは持参した携帯トイレを専用ブースで使用する形になるため、ここで改めて準備を整えておく。
小屋を過ぎると、道は徐々に傾斜が増し、本格的な登りへと変わっていく。足元に気を配りながら薄暗い森を進み、ゆっくり標高を上げていくと、午前6時を迎える頃、背後から真っ赤な朝日が深い森へと差し込んできた。木々の枝越しに眺めるご来光が元気を与えてくれて、まだこの先に続く長い道のりに向けて歩みを進めていく。
やがて周囲の樹林帯が低くなり、視界が開けた場所へと飛び出す。周囲には存在感を放つ巨岩や奇岩が点在していた。屋久島の山々は、巨大な花崗岩ででききている。宮之浦岳では山頂に近づくにつれて、雨風に耐え、長い年月で風化したこうした不思議な形の岩をあちこちで目にするようになる。「あれは何の形に見えるかな」などと、同行者とワイワイ会話を楽しみながら歩くのも、このルートならではの魅力だろう。
■日本最南端の高層湿原「花之江河」
淀川登山口からのルートでは、標高約1,600m地点で日本最南端の高層湿原となる「小花之江河(こはなのえごう)」と「花之江河(はなのえごう)」を通り抜けていく。最初に出会うのが、こじんまりとした湿原「小花之江河」だ。朝の静寂さに包まれた湿原を抜けてさらに10分ほど進むと、一気に視界が開け、広い「花之江河」の湿原に到着する。
奥には黒味岳(くろみだけ)がそびえ、足元にはミズゴケの緑が広がる。白骨化したヤクスギの立ち枯れが並び、その中を静かに清流が流れていく様子は、森の奥深くに隠された日本庭園のような神秘的な光景だ。
■森林限界を超え、展望地「投石平」へ
「花之江河」の先から深い森に入り、山から流れる水などを横目に階段を登っていく。やがて森林限界を迎えたのか低木が増えはじめ、岩が転がる道へと変わる。黒味岳と投石岳の鞍部には、大きな花崗岩がむき出しになった「投石平(なげしだいら)」というポイントがあり、展望がいいのでここでしばし休憩を挟むことにした。
周囲には巨岩や奇岩が突き出た山々が広がり、こうした景色こそが「屋久島の山らしさ」なのだなと、改めて洋上のアルプスの魅力を実感する。しかし、目指す宮之浦岳の山頂までは、まだここから長い距離が残されている。ひと息ついたら、再び山頂に向かって歩き出した。