いつか熊野古道を歩いてみたいというハイカーに向け、熊野古道アンバサダーを務めるぼくが、その歩き方を提案する連載の第2弾。今回は、実際に自らの足で熊野本宮大社まで参拝に行く「熊野詣」として歩いてほしいルートを紹介したい。その筆頭が「中辺路(なかへち)」だ。

 中辺路は、現在の和歌山県に所在する熊野三山(田辺市の熊野本宮大社、新宮市の熊野速玉大社、那智勝浦町の熊野那智大社のこと)を結ぶ、総距離100kmを超える道である。人々の営む生活域と神々の鎮まる神域とをつなぐ、熊野古道の中でもとくに重要な道で、平安時代から室町時代にかけては、京から田辺を経由して熊野三山を目指した上皇や公家たちにも利用されていた。その意味では、日本最古級の“ロングトレイル”のひとつといってもいいだろう。

◼️中辺路を攻略するポイントは3つ

中継地点とする近露王子。日本の原風景が、ここにはある

 中辺路を歩く場合は、熊野本宮大社を中心として東と西のふたつのエリアに分けて考えるとよい。今回は西側の「滝尻王子(たきじりおうじ)から熊野本宮大社までの区間」をとりあげる。このコースこそが、熊野詣の入門コースとなる。

 距離は約40km、累積標高は2,500m超。舗装された公道を歩くことも多いけれど、一般的に熊野古道を連想するような石畳の道は、驚くほど少ない。基本的には山道なので、実際のところは“登山”と変わらないと心得よう。

 この区間を攻略するポイントは3つある。

◼️️<ポイント①>行程は1泊2日が基本

道標がしっかり設置されているのも、人気の中辺路ならでは

 ぼくの場合は、現在の田辺市街地からバスでアクセスすることができる滝尻王子をスタート地点とし、1泊2日で熊野本宮大社を目指すことにしている。まあまあ歩くことになるから、歩く日を目標にして、トレーニングを重ねたり装備を検討することも楽しいものだ。時間をかけて、段取り八分で。

 1日目は、滝尻王子から近露王子(ちかつゆおうじ)まで歩く。距離は13km超、累積標高は1,000mにおよぶ。休憩時間を考慮して、7時間半ほどで近露王子に到着するペース配分で計画しておき、歩きながら調整する。登山の基本「早出早着」の考え方は、熊野古道でも採用したい。

 この日のゴールとなる近露は比較的大きな町だ。周辺は山に囲まれ、日置川の清流が美しい。ここは鮎釣りの聖地で、山と川のある風景がとにかくすばらしい。昨今は宿泊施設が増加しているそうで、スーパーマーケットをはじめ飲食店もある。そうした選択肢の多さが、近露を中継地点に選ぶ理由だ。

 個人的には、温泉のある「民宿ちかつゆ」推し。宿の雰囲気は清潔で明るく、食事がまた最高に美味しい。決め手は、歩き旅の疲れを癒してくれる温泉があること。ただし、その人気は“世界レベル”だ。泊まる場合は数か月前の予約が必要となる。

◼️2日目は早朝に出発した方が安心

 2日目は、近露王子から熊野本宮大社まで歩く。距離は約27km、累積標高は1,500mを超えるヘビーな区間だ。11時間ほどで歩く。土砂崩れで通行止めだった区間が十数年ぶりに復活したのが、2025年の秋のこと。ぼくは早速歩きに行ったけれど、これまで通っていた迂回路は、もう通れない。歩いたことのある人は、かえってレアな体験をしたことになる。道中、岩神王子からの眺めは格別だ。

岩神王子からの眺めは格別

 熊野本宮大社での参拝時間を考慮すると、ゆとりをもって15時には到着したいところだ。逆算すると、近露を出発するのが早朝4時ごろ。これなら多少の遅れはカバーできるだろう。とにかく長い距離を歩くことになるから、自分はもちろん同行する人の体力を踏まえて計画すべし。

 ちなみに、これまでぼくがこの区間を「1泊2日の行程」で案内したのは100人以上。数か月前からオンライン等でレクチャーを重ね、自分の足で踏破することを目標に準備は入念におこなう。そして、ついに歩き通したときの感動たるや。そんな機会を共有してもらえることが、ぼくにとって尊く、自分のことのようで嬉しい。