■垂直の壁を果敢に攻めるテクニシャン
現地に到着して岩肌を見ていると、急流の脇の岩肌に、黒いナメクジのようなものがくっついているのに気づきました。双眼鏡で確かめると、それがまさにお目当てのボウズハゼでした。じっくり観察していると、じわじわと登っているのがわかります。ボウズハゼ特有の吸盤状の口と腹びれで岩に張り付き、少しずつ体を持ち上げながら滝を登っているようです。
順調に滝登りが進んでいるように見えましたが、やはり一筋縄ではいきません。大きな段差がある場所では、進むのをためらっている個体が多く、大渋滞が起きていました。登山の難所で渋滞が起きるのとそっくりな光景に、思わず納得してしまいます。
しかし、そこは“渓流のクライマー”との異名があるボウズハゼ。タイミングを見計らって果敢にアタックしていきます。また、オーバーハングした岩でも、グイグイ登る推進力があります。さらに、ボルダリングの選手が難しいコース(課題)を攻略するように、時にはトラバースを交えながら滝を登っていく様子も見ることができました。彼らはなかなかのテクニシャンのようです。
■ゴール目前でまさかの滑落も!
よく見てみると、小さなボウズハゼが懸命に岩を登っていることに気づきました。隣の個体の半分ほどの体長しかありません。一茶がやせガエルを応援したように、私も心の中で大きなエールを送り続けます。
撮影を続けていると、時折、上から黒い物体が落ちていくのに気づきました。それは、なんと“滑落”してしまったボウズハゼでした。中には、もう5m以上も登っていたのに無残にも落ちていくものもいました。油断をしてしまったのか、水しぶきを浴びて耐えられなかったのかはわかりませんが、これまでの彼らの粘り強い努力を思うと、何ともやりきれない気持ちになりました。
彼らの中で、体長の約80倍もの高さの滝を登り切れるものは本当にいるのでしょうか。そんな不安が筆者の心の中で渦巻き始めたころ、一匹のボウズハゼが滝の落ち口に達していることに気づきました。ここで気を抜いてはいけないことを彼も認識しているのでしょう。一息入れてパワーをため込んだかと思うと、体全体をバネのように弾ませて空中へ跳び上がり、ついにゴールにたどり着いたのでした。滝を登っている時の慎重な動きとは対照的な、力強いジャンプでした。
これから9月までボウズハゼの滝登りチャレンジは続くとのこと。小さな体で大きな滝に挑み続けるボウズハゼ。その姿を見ていると、自然と「頑張れ」と声を掛けたくなります。ボウズハゼの観察は、滝の涼しさも味わえる真夏にぴったりのアクティビティです。