山を登っているとさまざまな生きものに出会うことができる。なかでも人気が高いのが、本州中部の高山帯にのみ生息する「ライチョウ」だろう。国の特別天然記念物であり、まるっこい愛嬌のある姿や、母鳥とともに山の斜面や岩の上を散歩するヒナたちの愛らしい姿が多くの登山者を虜にしている。そんなライチョウのことをもっと詳しく知るため、ライチョウの繁殖と飼育を行っている「大町山岳博物館」の元学芸員(現在は大町市役所観光文化課勤務)栗林勇太さんを訪ねた。

■羽毛の変化は「春」「秋」「冬」の年3回!

 ライチョウは1年の大半を高山帯で過ごしている。その生態の特徴のひとつは、季節によって羽毛の色を大きく変えることだ。

栗林勇太さん(以下、栗林)「古い羽が抜けて、新しい羽に生え変わることを『換羽(かんう)』と呼びます。ほかの鳥類にも見られる現象ですが、ライチョウのように極端に色が変わるのは珍しいですね」

栗林勇太さん。大町山岳博物館の元学芸員で、現在は大町市役所観光文化課に勤める

 ライチョウの換羽は、春、秋、冬の年3回行われる。春から夏にかけての羽毛は、オスは黒褐色、メスは薄茶色やこげ茶色のまだら模様で、秋になるとどちらもグレーっぽい灰褐色になる。そして、10月中旬の初冠雪に合わせるように灰褐色の羽が抜け、徐々に白い羽毛が目立ち始め、11月中旬には真っ白い冬羽へと変わる。

栗林「ライチョウが季節に応じて体色を変化させるのは、天敵の捕食者から身を守るため、つまり『保護色』だと言われています。実際、秋に灰色の羽になると岩場やガレ場にいてもまったく目立たないし、真っ白な冬羽は雪の斜面に完全に溶け込みます」

野生のライチョウ、夏羽のオス《写真提供=栗林勇太》
野生のライチョウ、夏羽のメス《写真提供=栗林勇太》
冬羽のオス《写真提供=市立大町山岳博物館》

 餌は主に植物で、コケモモ、ガンコウラン、オンタデ、ムカゴトラノオなどの高山植物の芽・葉・花・実を食べている。日本には植物食の鳥はたくさんいるが、葉を常食している鳥はきわめて少ないそうだ。

 また、「成長が早い」という特徴もある。

栗林「卵から孵化したヒナは、その日のうちに歩き出し、自ら植物をついばみます。例年7月上旬ぐらいに孵化し、だいたい2か月ぐらいで親鳥と同じぐらいの大きさになります。母鳥が小さなヒナを連れて歩く愛らしい家族の様子が見られるのは、7月上旬から中旬ぐらいのほんのわずかな期間だけなんです」

秋のライチョウ家族。この時期になると親子の体格差はほぼない《写真提供=市立大町山岳博物館》

 ちなみに、子育ては母鳥の役割で、オスはまったく関わらないそうだ。

栗林「母鳥が巣で抱卵している間はオスはなわばりを維持して、母鳥のそばに寄り添います。しかし、ヒナが孵化すると、オスはなわばりを解消して、母鳥やヒナたちから離れていってしまうのです」

 「人間を恐れない」ことも、日本のライチョウならではの特質だという。

栗林「ライチョウは人がそばにいても逃げませんよね。これは『日本の』ライチョウならではの特徴なんです。海外のライチョウ、たとえば北極圏に生息するスバールバルライチョウは、人が近づくとほかの鳥と同じようにすぐに飛んで逃げていきます」

 なぜ日本のライチョウは、人間を恐れないのか。その背景には、日本人とライチョウが長い歳月をかけて築いてきた関係性がある。

栗林「高山に生息するライチョウは、地域によっては古くから『神の鳥』としてあがめられ、山に入る人たちは見つけても捕まえたりせず、大切に守り続けてきました。それゆえ、ライチョウも人間を恐れないようになったのではないかと考えられているんです」