今年も猛暑がやってきた。この季節になると、海や川を舞台にした不思議な話を耳にする機会も増える。

 筆者は以前、海での怪談話が多い理由を、東アジアに根付く「二元的霊魂観」から考察した。「魂」と「魄(はく)」からなるこの概念では、魂は死後に肉体から抜け出して天に昇り、魄(=肉体に結びついた記憶)は地に留まるとされている。しかし、魂やあの世について日本人が抱いてきた考え方は、ひとつだけではない。今回は海で起きた奇妙な出来事を、古くから伝わる信仰を手がかりに読み解いていこう。

先祖の魂を迎える日本の伝統行事、お盆の時期の話(画像/shutterstock)

■お盆の集まりで、手持ち花火の最中に“異変”が起こる

 「僕にはまったく霊感がありません。でも、大人になった今だからこそ『あれはなんだったんだろう』と不思議に思う幼少期の出来事があります」

 そう語るのは、特殊清掃員・遺品整理士であり、怪談師でもある近藤嘉貴さんだ。特殊清掃員として数多くの死の現場に立ち会い、悲しい死の語り部をしている。そんな彼には、忘れられないひと夏の思い出があるという。

 「小学校低学年のとき、海水浴旅行で三重県に行きました。ちょうどお盆の時期だったと思います。僕の家族と叔母一家の二組で、海岸沿いの民宿に泊まったのを覚えています」

 大人たちに見守られながら、近藤さんは幼い妹や従兄弟とともに夏の海を満喫した。夕飯の時間になり宿に戻っても、昼間の興奮は冷めなかったそうだ。

背後の闇に気を向ける者は少ない……(画像/shutterstock)

 「ご飯を食べたあとも僕はまだまだ遊び足りなかった。花火を持って来ていたので、酒盛りしていた大人たちに声をかけたら、叔母が夜の海に連れて行ってくれることになりました」

 民宿の人にバケツやライターを借り、妹と従兄弟、叔母と4人で浜辺に向かった近藤さん。夜の浜辺は真っ暗で、波の音しか聞こえなかったという。

 「月明かりと懐中電灯の光を頼りに、手持ち花火に火をつけました。近くに街灯もなかったから、花火が消えると辺り一面が漆黒の闇になっていたのを覚えています」

 花火を楽しんでいると、その“異変”は突然訪れた。何度ライターを回しても、まったくつかなくなってしまったのだ。