■かつて交通の要所として栄えた「峠」 その魅力の裏側とは

 アウトドア好きの中には、峠越えや街道歩きに魅力を感じる人も多いだろう。全国の山あいには、人や物の往来を支えてきた名残として、古い橋やトンネルが今も佇んでいる。そうした遺構を眺めながら歩いていると、ロマンを感じるのは筆者だけだろうか。

 峠は古くから、自然と人の営みが交わり、ときに悲しい出来事も重なってきた場所だ。現世と異界の境目としても、たびたび人々に語られてきた。現代においても登山者や散策者のあいだでは、説明のつかないことを体験したという話が、ひっそりと語り継がれている。

 今回はある峠にまつわる話を紹介しよう。

紡がれてきたストーリーにロマンを感じることからファンも多い峠が、今回の“不思議”の舞台(画像/shutterstock)

■毎晩23時を過ぎると変わる、山の雰囲気…… 次々に起きる奇妙な出来事

 「この峠はかつて、交通の要として旅行客でにぎわった場所です。ただ、急勾配で険しい地形のため、通行に必要なインフラ建設時や開通後にもさまざまな事故があり、多くの方が亡くなったと聞いています」

 そう語るのは、地元の観光協会に関わり、長年地域の歴史や成り立ちを伝えてきた清水さん(仮名)だ。観光やハイキングで訪れた人たちの案内をすることも多いという。彼自身に霊感はないが、周りの人や観光客から「目撃談」が集まってくるのだとか。

 「地形を生かした夜間イベントを企画していて、その準備をしていたときのことです。数日にわたって日没後に照明機材の設営を行っていたんですが…… 毎晩23時を過ぎると、山の雰囲気が変わっていたんですよ」

 雲の流れや風向きが変わり、空気がどんよりと重くなっていく感覚があったという。協会スタッフたちが口を揃えて、「23時を過ぎると変だよね。なんか嫌な雰囲気になるね」と話していたそうだ。

明かりが届きにくい山では、昼と夜で同じ場所と認識できないほど印象が変わることも(画像/shutterstock)

 「そんなとき、不可解なトラブルが連発しました。まず、山の斜面でライトの設営をしていた人が『うわぁあ!』と叫びながら、2~3メートルほど転がり落ちていったんです……。幸いケガはなかったのですが、『後ろから誰かに押された』と言っていて。もちろん、そんな危ないことをするわけがありません」

 清水さんは「疲れて身体がふらついたのでは?」と首を傾げたが、落ちたスタッフは頑なに「誰かに押された」と怖がっていたという。その直後だった。清水さんを含む3人で、機材の設置場所について話していたときのことだ。

 「スタッフのひとりが、もうひとりの背後を指さし『〇〇さんの後ろに、白い浴衣のようなものを着た女がいた』と、顔を青ざめながら呟きました。すらりとした髪の長い女性がうつむいたまま立っていて、目だけは僕たちをじっと見ていたらしいんです」

 その後もおかしなことは続いた。原因不明の機材トラブルや、壊れるはずのない物の故障。さらには、「甲冑を身につけた人を見た」と証言する人まで現れたという。