2025年もさまざまな缶詰が登場したが、そのなかで個人的に深く印象に残ったのが、清水食品「サバ・バジル ジェノベーゼ風」だった。国産のバジルペーストを使ったこのサバ缶は、ソースの鮮やかな緑色が美しく、まさにイタリアのバジルソース「ペスト(ペーストの意)・ジェノベーゼ」を思わせる出来映えなのであります。

 なぜ、この商品が深く印象に残ったのかは後述することにして、先にどんなサバ缶なのかを紹介しよう。

■美しい緑色の謎

サバ・バジル缶の外観と内観

 バジルは、清涼感のなかにもスパイシーさを思わせる独特の風味を持っているハーブの一種である。葉は濃い緑色であり、その風味と色をなるべく失わないように“非加熱”で作るのがバジルソースである。バジルは加熱すると黒く変色するからだ。

 それに対して、缶詰は最終工程で120℃近い高温で加熱しないといけない(殺菌のため)。ということは、普通に考えたら缶の中のバジルは黒く変色しているはずだが、このサバ・バジル缶は美しい緑色が残っている。それでいて、変色を防ぐための添加物は使われていないという。じつに不思議である。

 なぜ、そんなことが可能なのだろうか。

■引き継がれたAさんの執念

2020年に発売された旧商品(当時に撮影)

 このサバ・バジル缶は、2020年に発売された「マッカレル バジル&レモン」という缶詰のリニューアル商品。バジルソースの色鮮やかさは、すでにその製品で実現されている。

 2020年の発売時に、メーカーの清水食品に取材をしたことがある。当時の商品開発部にAさんという人がいて、この人が「バジルソースを使うなら鮮やかな緑色を残すべし!」とこだわった。試作は何度も失敗したが(加熱後にバジルが変色した)、各地からバジルペーストを取り寄せて試作を繰り返すうちに、とうとう加熱後も変色しないバジルペーストを発見したという。まさに執念が起こした奇跡であります。

 その後、Aさんはご病気にかかり、2023年に若くして逝去された。彼が残した鮮やかなバジルソースのレシピは引き継がれ、今回のリニューアルでさらに魅力を増したのだった。具体的には、新たにチーズパウダーを加えて、よりジェノベーゼらしい味に仕上げてある。

 サバ缶ひとつとっても、その背景にはこんな物語が潜んでいる。だから缶詰は面白いのであります。