■シンプルな釣りがもたらす自由

ダイソースプーンにヒットしたマハゼ。ちなみに下の敷物もダイソーで購入したもの

 この釣りの良いところは、仕掛けが極めてシンプルでライントラブルが少ないことと、スプーンが抵抗となって釣り針を飲まれることが少ないことだ。道具立ても軽く、準備も片付けもあっという間。まさに“ミニマル・フィッシング”。釣り初心者にとってトラブルがなく楽しめるのは大事なこと。ぜひ多くの人にチャレンジしてもらいたい釣法だ。

 しばらくハゼのアタリを楽しんだ後、友人と幼い頃を振り返りながら語り合う。

 「昔の釣りって、こうだったよね」

 「うん。あんまり難しいこと、考えずに楽しんでた」

 陽は傾き、風が少し冷たくなった。空が澄みきり、どこか懐かしい夕方の匂いがする。

■ハゼ釣りが教えてくれるもの

ハゼは日本人が昔から親しんできた魚

 ハゼは古くから日本人に親しまれてきた魚だ。江戸時代には“庶民の魚”として愛され、川辺で笑う子どもたちの姿が浮世絵にも描かれている。

 かつてはどこにでもいた大衆魚。しかし今では、江戸前寿司の高級ネタとして扱われることもあり、時代とともにその価値は静かに変化してきた。

 100円ショップのスプーンを手に、そんな魚と気軽に向き合えるのは、ある意味贅沢な時間ではないかと思う。高価な道具でも、大きな魚でもない。ただ、水の匂いと風の音を感じながら、穏やかな午後に小さな命と出会う。それが、今の時代に残された数少ない“贅沢”なのだと。 

晩秋の運河は日本の故郷(ふるさと)といった風情

 その後ポイントを移動した。周囲に民家がなく、近くに道路もなかった。秋風が草の間を吹き抜けるサワサワという音以外何も聞こえないポイント。

 日常の喧噪(けんそう)を離れ、スプーンを動かしながら時折釣れるハゼを眺めつつ、ただひたすら古き良き童心に浸る。

 「そろそろ帰ろうか」

 友人に声を掛け、道具を片付けていると、遠くから夕方5時を知らせる役場の音楽がかすかに聞こえてきた。そのメロディは誰もが小学校の頃歌った「うさぎ追いしかの山」で始まる唱歌「ふるさと」だった。

 

使用タックル
ロッド:5.11ft渓流用ルアーロッド
リール:スピニングリール(ミッチェル308)
ライン:PEライン0.6号
リーダー:フロロカーボン1.2号
ルアー:DAISO「スプーン(2.2g)」
フック:カルティバ S-31 #6