昆虫というと、暖かい季節に活動するイメージが強い。

 実際、昆虫は暖かい季節の方がよく見られる。なぜなら昆虫の多くは「外温性動物」であり、体温が外部の環境に依存するため、外気温が低いと活発に動くことができなくなるのだ。

 ところが、あえて真冬の季節に発生する、変わり者の蛾たちがいる。それが「冬尺蛾(フユシャク)」だ。フユシャクたちは、なぜ厳しい寒さの冬に活動できるのだろうか?

 早速、解説していこう。

■フユシャクのメスにははねがない? 

 フユシャクとは、”晩秋〜早春にかけて活動するシャクガ科の昆虫たち”のことを指す総称(シャクガ科には「フユシャク亜科」というグループがあるが、このグループの虫たちだけを指すわけではないのが少し紛らわしい)。彼らは冬に活動する蛾ならではの、面白い生態をたくさん持っている。

 その1つが、「オスとメスで姿が大きく異なる」こと。オスは一般的にイメージされる蛾の姿をしているが、”メスのはねは退化”しているのである。メスははねがまったく見られないか、小さく残っているだけだ。

 例えば、以下のチャバネフユエダシャクは、オスとメスが同じ種とは思ないくらい姿が異なる。

チャバネフユエダシャクのオス
チャバネフユエダシャクのメス。「ホルスタイン」と呼ばれたりする

 チャバネフユエダシャクは特に差の大きい種だが、他のフユシャクも同様に、メスは知らなければ蛾とは思えないような珍妙な姿をしている。

 はねがないので、もちろんメスは空を飛べない。では、どういうところにいるかというと、木の幹や擬木柵などの上にいる。そのため、僕は冬になるとそのユニークな姿を見たくなって、寒空の下、つい公園巡りをしてしまうわけだ。

 ところで、空を飛ぶというのは、えさやパートナーを探すのに非常に有効な手段だ。それなのになぜ、フユシャクははねを捨てたのだろうか? 

 その理由としては、以下のようなことが言われている。

 

  1. はねを持つと表面積が大きくなり、熱を発散してしまう。寒い冬に熱を奪われるのを防ぐため。
  2. はねを使って空を飛ぶのには多くのエネルギーが必要だが、冬のようなえさが乏しい季節では、エネルギーを得るのが難しいため。
    ※そもそもフユシャクは成虫になるとえさを摂らない。冬はえさが体内にあると凍結の原因になるからだ

 

 メスのはねがないのは、フユシャクの専売特許ではないのだが、フユシャクに共通する特徴の1つである。

■フユシャクのパートナー探し 

 ところで、はねを持たないフユシャクのオスとメスは、どうやって出会うのだろうか?

 この点においても、彼らの行動はユニークで面白い。その方法とは、メスが木などに登って「フェロモン」を出し、オスに自分の居場所を伝えるというやり方だ。メスがフェロモンでオスを呼ぶ行動は「コーリング」と呼ばれている。飛翔しているオスは、辺りを飛び回ってメスのフェロモンを探す。見事フェロモンを感知してメスを見つけられれば、カップル成立だ。

ウスバフユシャクと思われるオスとメス

 この行動により、はねがないデメリット(パートナー探しの範囲が狭くなってしまう)をカバーしている。

 このような”冬に生きるための様々な工夫”も、フユシャクの魅力なのだ。