■江戸時代の噴火の爪痕「宝永山」を目指す
半蔵坊の先に、宝永火口と富士山頂の分岐点があるので、道を間違えないよう気をつけよう。徐々に傾斜が増すが、足元は相変わらず不安定な砂れきの道のため、ストックを使用しながら進む。
火口縁まではジグザグの急登が続くが、振り返れば雲海や山麓の町並みが眼下に広がり、疲れを忘れるような絶景が待っているので、適度に休憩を挟みながら歩くといい。
とうとうたどり着いた宝永山山頂、火口のスケールに誰もが息を呑む。まるで巨大な隕石でも落ちたかのような地形だ。噴火のエネルギーと地質の力がむき出しになった光景と、強い風に流され、形をかえる雲。この標高ですでに周りには高いものがないので、自身も富士山の一部になったような感覚と感動に包まれる。
ただし、ひとたび雲と濃いガスに包まれると、一気に視界不良に襲われることも。前後の案内表示の確認はもちろん、地図読解能力も不可欠である。さっきまで見えていた富士山の頂や火口の様子も全く見えなくなり、辺りが真っ白なガスに包まれると、恐怖心すら感じるほどだ。そんなときは、慌てずにゆっくり足元の確認と方角の確認をこまめに行いながら進むといいだろう。


●大砂走りで風を切りながら下山!
下山には「大砂走り」と呼ばれる御殿場口の名物ルートを選択する。火山灰で覆われた斜面を一気に駆け下るように進むこのルートは、御殿場コースと須走コースの下山路でのみ楽しめる特権だ。
ザクザクと音を立てながら砂地を踏みしめる感触は独特で、一歩ごとにスピードが乗る。まるで斜面を滑るような感覚を味わえ、行きに苦しめられた砂れきに、今度は感謝したくなる気分になる。登りの疲れを忘れてしまうほどの楽しいひとときだ。
ただし、あまりスピードを出しすぎては危険も伴うため、グリップ力の高い登山靴が必要不可欠である。また靴の中に砂が入りやすいので、ゲイターの着用もおすすめだ。
約2時間で五合目の登山口へと戻る。変化に富んだ景観と体験により、満足度は非常に高い山行になること間違いなしだ。

●手軽に富士山を味わえる「宝永山」
宝永山の魅力は、まさに「火山地形の縮図」といえる景観にある。荒涼とした黒や赤茶の砂礫地、風にさらされた崩れやすい斜面、剥き出しになった地層など、ダイナミックな地質を肌で感じられる。また、標高も高く周囲を遮るものがないため、晴れた日には駿河湾から伊豆半島、さらに南アルプスまで見渡すことができる。富士山山頂に負けず劣らずの景色を体験できる場所である。
一方で、あっという間に濃いガスに包まれる危険性もはらんでいるので、しっかりとした装備は必要不可欠だ。
富士山の中でも特に静かで個性的なこのエリアは、登山初心者から中級者、さらには「富士山を登り切ったけれど違う楽しみ方もしてみたい」という経験者にも強くおすすめできる。他のコースでは得がたいユニークな体験をしてほしい。