群馬県と長野県の県境に位置する「毛無峠(けなしとうげ)」は“グンマー帝国”の“国境”としてインターネットやSNSで、多くの注目を集めた場所だ。経年でカサカサにかすれた県境看板や、それとは別の注意を促す案内板との偶然性から、あたかもその先にある群馬県へ入ること自体が危ないようじゃないか? と、ユーモアなコメントとともに拡散されたのだ。

 そのシンボルともいえる看板が、2025年になりリニューアルされた。しかし、ただ新しくなっただけではなく、親しまれてきた“秘境感”を損なわない粋な計らいで、ふたたび多くのファンを喜ばせている。

 今回は、この毛無峠と、そこからアクセスできる「毛無山(けなしやま・標高約1,930m)」、「破風岳(はふだけ・標高1,999m)」の魅力をあわせて紹介する。

■毛無峠とは?  “グンマー帝国国境”の謎めいた魅力

 毛無峠は、長野県上高井郡高山村と群馬県吾妻郡嬬恋村にまたがる峠だ。その名の通り、周囲には木々が少なく、荒涼とした大地が広がる。

 かつて、この地には国内最大級の硫黄鉱山「小串鉱山(おぐしこうざん)」があり、最盛期には2,000人以上が暮らしたという。1971年に閉山となり、現在はその遺構が残されるのみだ。

 この荒涼とした風景と、群馬県側にある「この先危険につき関係者以外立入禁止」「遭難多発区域」といった看板が醸し出す独特の雰囲気から、SNSなどで“秘境・グンマー帝国国境”として知られるようになり、話題になっていた。

 この看板が経年劣化に伴いリニューアルされたのだが、新しい看板も、あえて文字や県章をかすれさせることで、毛無峠が醸し出す唯一無二の「秘境の雰囲気」を見事に継承している。

 筆者は看板がリニューアルをされたことを知らずに訪れたため、最初は「こんなに看板はきれいだったかな?」と思ったが、すぐに「気のせいか」と思い直したほど、その景色にマッチしていた。

 後日、地元紙で「グンマー帝国の看板がリニューアル!」の記事を読んだときは、思わず過去の写真を引っ張り出してきて見比べたほどだ。それにしても、新聞でも“グンマー帝国”と称され、群馬県も雰囲気に合わせて看板をリニューアルするとは。改めて、インターネットの世界だけでなく地元からも愛されている場所なのだと感じた。

新しくなった“グンマー帝国国境”の看板。しっかりと読めるものの、あえて「かすれた」新品を設置

■かつて日本を支えた鉱業の遺構が残る「毛無山」

 毛無峠の東側にある毛無山は“国境”から山頂まで徒歩20分。地形図には山名の表記はなく、山頂を示す標識などもないが、毛無峠まで来たら、ぜひ足を延ばしてもらいたい場所だ。

 毛無山を見てまず目に入るのは、採掘した硫黄をふもとへ運ぶための索道(ロープウェイ)の鉄塔だ。今なお直立して当時の姿を残すもの、根元から折れ時代の経過を伝えるもの、その様子はさまざまだ。

 「毛無山」の名の示す通り高い木々はないため、登山道からは毛無峠や、その向こうに続く破風岳や四阿山(あずまやさん)など遠くまで続く稜線が一望できる。わずか20分の登山で歴史と雄大な自然に触れられるおすすめの山だ。

 登山道から裾野を見下ろすと遠くに鉱山跡が広がるのが見える。毛無峠から続く道が見えるが、火山ガスの危険があり、立入禁止なので絶対に入らないように。 

毛無山に残る鉄塔と毛無峠、破風岳を望む
毛無山に残る鉄塔と毛無峠、破風岳を望む