■仲間の悲鳴、そして正体不明の衝撃!

仲間が何かになぎ倒された現場。背後には鬱蒼とした藪や森が広がる

 「うわぁぁっ!」、静まり返った野池に、仲間の絶叫が響き渡った。少し離れた場所で突然発せられた、ただごとではない悲鳴。 心臓が跳ね上がる。筆者は一呼吸おいて、恐る恐る仲間の元へ歩み寄った。

 薄暗い道を慎重に進み、ようやく仲間の姿を確認できた。 仰向けに倒れ、顔は引きつり、口をパクパクと動かして何かを必死に訴えようとしている。 ようやくしぼり出された声は恐怖に震えていた。

 「ガサガサって音がして、その直後、後ろから強烈な力でなぎ倒された…… いや、足をすくわれた」

 獣か? それとも他の何かか?  慌てて辺りを見回す。だがそこには、何の気配もない。あるのはただ不気味な静寂だけ。ライトをつけようとしたが点かない。電池切れを起こしていた。辺りはすっかり暗くなり、気配はあるのに姿が見えない。「また襲われたら……」、その恐怖がじわじわと全身を侵食してくる。

 幸い仲間にケガはない様子だが、恐怖から全身が震えていた。「これ以上続けたら危険だ」、我々は釣りを切り上げることにした。野池を離れ、車へと続く細道を急ぐ。だが、その道中またしても藪の中から不定期に響く物音。迫ってくるようなその音に、ビクッとして足を止めて耳を澄ますも、見えるのは闇に溶け込んだ藪だけ。

 何とか車に辿り着いたが、もはや釣果の話などする余裕はなく、言葉少なに別れた。体重が80kg近い友人を背後からなぎ倒すほどの力…… あの夜、我々のすぐそばにいたのは、一体何だったのか?

 数日後に電話すると、ふくらはぎと太ももの裏にアザを確認したという。

■自然のなかで釣りを安全に楽しむために

身近にイノシシなどの野生動物が潜んでいるかもしれない(画像はイメージ)
左から緊急用ホイッスル、クマ鈴、予備電池、ヘッドライト、懐中電灯

 このときのように、釣りの最中に“何か”が背後から襲ってくるという体験は稀かもしれない。だが、野池での釣行には常に予想外の危険が潜んでいる。とくに夕まずめや日没後の薄暗い時間帯には、夜行性の動物との遭遇リスクが一気に高まる。

 イノシシやクマといった野生動物が身を潜めていることもあり、無防備で釣りに没頭しすぎるのは危険だ。ライトは絶対に欠かせない装備の一つ。筆者は電池切れで使えなかったが、予備電池の携帯や、出発前の点検は必ず行うべきである。夏至で日が長いとはいえ、釣りに夢中になると、気がつけばあたりは真っ暗というのも珍しくない。

 さらに、近年では全国的にクマの出没が相次いでおり、クマ鈴の携帯や、緊急時用のホイッスル、クマ避けスプレーなどの持参もおすすめしたい。通い慣れた場所であり、危険な野生動物の目撃情報がなくとも、“備えておく”のが釣り人としての基本姿勢だ。「自然を甘く見ない」こと。それが、アウトドアを安全に楽しむための第一歩である。