色とりどりの花が咲きはじめる春。天候によっては半袖で過ごせる日も増えてきたので、週末に遠出したくなる人も多いだろう。今回は東京からおよそ2時間半、日帰り旅行で絶景を楽しめる、世界農業遺産に認定された静岡県東山エリアの「粟ヶ岳」ハイキングを紹介する。

■広大な茶畑を眺めながら登る「粟ヶ岳」

何列にも連なる美しい茶畑の様子

 静岡県掛川市の北東部に位置する東山地区にある粟ヶ岳。ハイキングコースの周りに並ぶ茶畑のまわりには、農家によって管理された「茶草場(ちゃぐさば)」とよばれる半自然草地が存在する。また、茶園の畝間(うねま)にススキやササを「刈敷き(すき込んで肥料とすること)」する伝統的農法のことを「茶草場農法」とよび、県を代表する農村の風景となっている。東山地区の茶草場の面積は東京ドームおよそ28個分(130haほど)と広大だ。より良質なお茶を生産するための人々の努力と、生物多様性が同じ方向を向いて両立している点が世界中から高く評価され、2013年に静岡の茶草場農法は「世界農業遺産」に認定された。

■粟ヶ岳のシンボル「茶」文字

粟ヶ岳の斜面に描かれている「茶」の文字、歩いている場所に説明書きが建てられている

 粟ヶ岳登山口の駐車場に向かっている途中に見える斜面に描かれた「茶文字」は、東山のシンボルだ。この文字は昭和7年頃、茶業組合や村民が力を合わせて斜面にマツの樹を植え付けたことがはじまりである。当初は現代のようなスマートフォンはおろか、トランシーバーもない時代。向かいの山から遠望し、手旗で合図して作り上げたとのこと。はじめに植えたマツはマツクイムシの被害にあったため、ヒノキに植え替えられ、定期的にメンテナンスを行いながら、令和のこの時代まで美しい文字が保たれている。

■意外と手ごわい? 序盤の登り坂

ハイキングコースのルート案内が各所に立てられておりわかりやすい

 登山口駐車場のそばからはじまるハイキングコース。当日は地図アプリをインストールしたうえで進んでいたが、各所に可愛らしいイラスト付きの看板が立てられていたおかげで迷わず登ることができた。スタート地点からしばらくはアスファルトの道を進むため凹凸につまずくことは少ないものの、意外と急登だ。見晴らしの良い道が続くので、気温が高い日は日除けの帽子や手ぬぐいも携帯しておくことをおすすめする。

■山道でカモシカと遭遇

山道の端にて佇むカモシカ。登山客が微笑ましそうに眺めていた

 アスファルトを20~30分ほど歩くと、木が生い茂る山道に変わる。階段もありつつ、なだらかな道も増えるので登りやすい。しばらく進んだ先で、野生のカモシカに遭遇。この粟ヶ岳ではよく見られる光景らしい。人を怖がる様子はなく、石の上に座り眠そうにしている姿が可愛らしかった。