武甲山(ぶこうさん)は、埼玉県の横瀬町(よこぜまち)と秩父市(ちちぶし)にまたがる標高1,304mの山で、奥武蔵の最高峰。かつては秩父岳と呼ばれ、山頂には御嶽神社(みたけじんじゃ)があり、信仰の山として秩父盆地に暮らす人々から親しまれてきた。

 武甲山は、ピラミッドのように見える独特な山容が特徴だ。これは、山の北側で行われている石灰石の採掘によるもので、山の形状だけでなく、標高にまで影響を与えているのだから驚きである。1900年時点では1,336mあった標高が、現在は1,304mになっている。

 石灰石採掘が行われつつも、深山の雰囲気漂う杉並木や、石灰岩の露出した岩肌など、多様な景観で登山者の人気は高い。山頂からは秩父盆地や群馬の山々の壮大な展望が得られることも、武甲山の魅力の一つだ。

■西武秩父線・横瀬駅から採掘工場を抜けて、武甲山を目指すピストンコース

横瀬駅から武甲山へのピストンコース。青線が掘削工場の立ち並ぶエリアだ(国土地理院地図より引用)

 武甲山の登山道は、人気の山だけあってしっかりと整備されている。さらに、登山口である「御嶽神社一ノ鳥居」から山頂までは、52の丁石(ちょうせき・ちょういし)が設置されており、進捗を確認しながら登ることができる。登山道は歩きやすく初心者にもおすすめなのだが、実は横瀬駅から登山口までの長い舗装路歩きが、この山の魅力の一つと言える。

●横瀬駅から武甲山登頂までの所要時間

武甲山に向かう登山客で賑わう、朝の横瀬駅

横瀬駅から武甲山ピストンコース所要時間
・横瀬駅から全コース徒歩の場合
横瀬駅 (0:00) → 一ノ鳥居 (1:45) →武甲山山頂 (4:30) →一ノ鳥居(5:30) →横瀬駅(7:00)
歩行距離: 約17.4m
累積標高差: 登り 832m、下り 832m
合計所要時間: 7時間

・横瀬駅から登山口までタクシー、またはマイカー利用の場合
武甲山駐車場 (0:00) →武甲山山頂 (2:35) →武甲山駐車場 (4:35)
歩行距離: 約6.3km
累積標高差: 登り 1,289m、下り1,289m
合計所要時間: 4時間35分
※横瀬駅から武甲山駐車場までのタクシー料金(片道の目安:2,000〜3,000円)

●西武秩父線・横瀬駅へのアクセス

 都内から埼玉県の横瀬駅までは、西武池袋線・飯能駅(はんのうえき)経由が便利。なお、特急ラビューを使用すると、池袋駅から乗換なしで最短74分でアクセスできる。

 横瀬駅前には横瀬町観光案内所が併設されているので、必要に応じて情報収集してから出発するといいだろう。自販機なども設置されているが、必要装備は事前に用意しておくのが登山者の心得というものだ。

■秩父の人気山! 奥武蔵最高峰「武甲山」

●横瀬駅から工場地帯を抜けて登山口へ

工場集積エリアに積まれた石灰石。道路も真っ白だ

 西武秩父線横瀬駅を出ると、駅前にはタクシーを待つ人の列ができていた。皆一様に登山ウェアに身を包んでいるところを見ると、おそらく武甲山の登山口まで向かうのだろう。

 登山口まで約6km、90分の舗装路歩きが待ち構えているのだから、タクシーに頼りたくなる気持ちも分かる。しかし、それでも筆者は舗装路歩きをすすめたい。石灰石採掘が盛んに行われ、標高が変わるほどに削られてきた山。その採掘工場を眺めながら登山口を目指すのは、武甲山ならではの楽しみ方だと感じるからだ。

 長い煙突から白い煙が立ち上り、行き交う大型トラックのボディは石灰で白くなっている。これから山の自然の中を歩こうというのに、道中に広がるのはドリルやショベルカーの機械音だ。このギャップを味わってもらいたい。ただし、噴煙やホコリが舞っているので、マスクやサングラスの用意を忘れないようにしよう。また大型車の出入りも頻繁なため、十分注意して工場地帯を進もう。