緑の稜線と真っ青な空のコントラスト、夕立に追い立てられ、その切れ間で不意に遭遇した虹など、山にはそこでしか見ることができない景色がある。
しかし、美しいだけでなく、不快な害虫の存在といった要素に悩まされることもある。特に筆者のような低山を好む登山者にとって、蚊をはじめとした虫への対策は必須事項だ。
そこで、暑さと虫除けを同時にこなせるアイテムとして、今夏から導入したのがハッカ油だ。今回の記事では、ハッカ油の登山での利用方法のひとつである、虫除けスプレーとハッカクリームを自作し、その効果について体を張って検証してみたので、ぜひご覧いただきたい。
■ハッカ油の登山での利用方法
ハッカ油は英語でミントと呼ばれ、独特なスッとした清涼感がある。食品としての利用のほか、リラックスアロマや清涼スプレー、消臭と幅広く活用されている。
ハッカ油は、スプレーボトルに入った虫除けとして販売されているタイプもあるが、筆者は多用途に使うという理由から食品添加物として認可されたものをおすすめしたい。
例えば、筆者は冷たい飲み物をたくさん飲むとお腹の調子が悪くなってしまうため、山でも飲み物は常温だ。しかし、冷たいものを飲んで気分を変えたい場面がないわけでもない。
そんな時、スポーツドリンクにハッカ油を一滴入れると、清涼感が得られ、口の中や喉が冷たく感じられる。筆者同様にお腹が弱い方は、ぜひ試してほしい。
その他にも自作のハッカスプレーをタオルや手拭いにスプレーして体を拭けばさっぱりするし、希釈したハッカ油を体に噴霧すると体感温度が下がる。
汗だくになった服や靴にスプレーすれば防臭効果も期待できるので、たっぷり汗をかく夏の低山では、移動で公共交通機関を利用する際に重宝した。
このようにドリンクに入れる、ハッカスプレーとして清涼感を得るなど、多用途に使う場合には滴下可能な小瓶に入ったタイプをおすすめしたい。
そして、忘れてはならないハッカ油の防虫効果。昨今は9月や10月の方が、高温になる真夏よりも蚊の活動が活発になる。筆者が子どもの頃のように真夏だけ蚊の対策をしていればよいという環境ではなくなってしまったようだ。
しかし、一日の中でも比較的涼しい早朝の山中はその限りではない。筆者の経験でも早朝の樹林帯ではたくさんの蚊が飛んでいる。
これらのことからハッカ油は真夏だけでなく初秋の頃まで活用できるため、費用対効果に優れたアイテムといえるだろう。
■ハッカ油スプレーの虫除け効果実験
ハッカ油を用いた虫除けスプレーの情報は、インターネットで簡単に収集できる。ハッカ油を販売するメーカーでも効能のひとつとして紹介している。
筆者はハッカ油を利用した虫除けスプレーを自作するにあたり、実用的なハッカ油の濃度、効果時間、希釈する素材による違いを確かめてみることにした。
今回は水道水のみを用いて希釈。理由は、精油を溶けやすくして水との混合を容易にする無水エタノールがなくても、実用的なものが作れるのか試すためだ。
ただし、水道水を使用して希釈する場合には、衛生上の問題からすぐに使い切る必要がある。後述する実験では水道水30mlを使用したが、これは筆者が一回の登山で使い切ることができる分量となっている。今回の実験でも制作したハッカスプレーやその他のものは使い切りとしている。
そして、これから紹介する実験とその結果は、あくまでも筆者の「体感」を主軸にした比較実験であり、精密な科学実験ではないことをご了承いただきたい。
●濃度別ハッカ油虫除けスプレーの効果実験(静止状態)
最初に行った実験は、ハッカ油の濃度別効果の比較。実験時刻は登山で行動を開始する時間を考慮し、朝6時からとした。一日の中でも比較的涼しく、蚊の種類によっては活発に活動する時間帯でもある。
30mlの水に対し、ハッカ油を1滴から5滴まで滴下した虫除けスプレーをそれぞれ用意し、噴霧し静止した状態で30分間虫除け効果を比較実験した。
結論から述べると1滴、2滴では効果はほとんど感じられず、3滴目から明らかに変化が見られた。筆者の両腕を用いて噴霧あり・なしの比較をしたが1、2滴では両腕ともに蚊にたかられた。
だが、3滴からは噴霧した腕に蚊はなかなか飛来せず、その時間はハッカ油の濃度が増すごとに伸びた。このことから静止状態で虫除けとして利用する場合には3滴から5滴、あるいはそれ以上が実用的であると感じた。
●ハッカ油虫除けスプレーの効果実験(移動中)
静止状態での実験では、ハッカ油5滴を入れたスプレーを噴霧した腕にも約15分後には蚊が飛来した。だが、登山している時に30分間も一か所に座り続けている状況は長めの休憩、もしくはテントの設営を終えゆっくりしている時間ぐらいではないか。
そこで、行動中を想定して効果を検証してみた。方法はいたって簡単で、ゆっくり歩き回るだけだ。
結果としては、虫除け効果は静止状態での実験に追従する結果となったのだが、蚊が飛来するまでの時間が延び、まとわりつかれ難くなった。
1、2滴では目覚ましい結果は得られなかったが、それでも静止している状態よりも明らかに蚊が飛来する時間は延びた。これは蚊の対処方法として「その場を立ち去る」というものが有効であることも関係があるだろうが、行動中の清涼感と虫除け効果をある程度担保する結果となった。