■100人以上のお客さんにキャンセルしてもらう事態に
他の山域の山小屋でも、コロナ休業があちこちで聞こえ始めていた第7波。私たちスタッフ3人は、順番にコロナに罹患した。
小屋主として、預かっている大事なスタッフたちをコロナに感染させてしまったという責任を感じ、「何がいけなかったのだろう? 今年は食事提供をしなければよかったのか?」などと、考えても仕方のないことをばかり考えた。
そのうえ時期が悪く、8月のかきいれどきに重なった。100人以上のお客さんにキャンセルしてもらうことになってしまった。申し訳ない。
体調も悪く、休業中の補填もなく、補償もなく。山小屋を引き継いだ1年目は特に使った経費も多く、いつ通常営業に戻れるのか、本当に不安しかなかった。
■仕方のないこと、でも……
お客さんは律儀な方が多く、「下山したら熱があり、検査したらコロナだった。小屋の皆さんは大丈夫ですか?」というような連絡をくれた。そんな連絡は1、2件ではなかったので、どこから誰が持ち込んだのか、なんてことはわからないし、誰のせいでもない。
経営面では、休業期間中の人件費、ダメになる食材、自分の具合の悪さ、元気になれるのかという得体の知れない不安。もう私たちは休めない。次はない。と気持ちが追い込まれた。
近隣の縦走路上の山小屋に事情を説明し、「そちらは大丈夫ですか?」と聞くと、「大丈夫だよ。そちらも頑張ってね」と、みんな労いの言葉をかけてくれた。その言葉で、この広く大きい南アルプス南部の山域で、私は1人ではないのだな、という安心感をもらったことを覚えている。
縦走する人がいる以上、1つずつの山小屋が対策をするだけでは難しい。「続けて休業にならないためにも、今一度、感染症対策を十分にやりましょうね」とお互いに確認しあった。いろんな小屋にいろんな人が集まって、またいろんな小屋へと動いているのだ。言いにくいことを言いあうのも小屋主の仕事だろう。
当時は本当に切羽つまっていたし、一番はもうスタッフを苦しめたくない。2度目の休業はあり得ない。