■高天原温泉の白い湯に入湯!

チングルマ綿毛でいっぱいの溶岩台地雲ノ平

 翌朝、筆者は目的地である高天原温泉へと向かった。平らな溶岩台地雲ノ平奥スイス庭園から、崖のような険しい山道を標高約400m下った先に広がる美しい湿地帯「高天原」が現れる。

水晶岳の地すべりで作られた美しい高天原

 さらに10分ほど進むと、沢に沿って湯船がある。混浴用と、女性用に仕切られた風呂もあり、大変ありがたい。朝の8時半、湯船には誰もいなかった。嬉しい! ゆっくりしよう。素早く準備してお風呂に入った。 

白とブルーの混じったような色の高天原温泉

 硫黄の匂いのする、白濁した柔らかな肌ざわりの湯。朝早い爽やかな空気の中で、鳥の声と木々の音、そして湯舟に注ぐちょろちょろとした湯の音だけが聞こえる。ちょうどよい温度だった。

 結局、1時間も高天原温泉で一人入浴した。贅沢の極み。最高の入浴。これまでの疲れが湯に癒されていく感覚にうとうとした。

 さっぱりとした気分で今度は岩苔乗越(いわごけのっこし)へ。途中水晶池で昼食をとりながら撮影した。

幻想的な風景の水晶池

 誰もいない、しーんと静まり返った池から水晶岳を眺めた。風のない池は鏡となり、水晶岳を映し出していた。最初は夢中で撮影していたが、あまりにも静かなのでだんだん怖くなってきた。

 突如、登山道から水晶池へつながる背後の茂みが「ガサガサ」と大きな音を立てた。恐怖が体中を駆けめぐる。クマ? ここで死ぬのか!? 本気の奇声を発して振り返ると、そこには若い男性がいた。笑いながら筆者はその場にへたり込んでしまった。

 クマでなくてよかった、と安堵し水晶小屋へ向かった。筆者は標高約2,900mに位置する水晶小屋からの絶景に魅せられ何度も泊まっている。この日は一旦水晶小屋に荷物を置いて、水晶岳を往復した。水晶小屋へ戻って30分もすると、雲が目の前で積乱雲となり、すぐに雷が鳴り大雨が降った。

水晶小屋の窓から見えた入道雲

■鷲羽岳を経由し、双六小屋へ

 4日目も晴れ。暑いけど移動中に雨が降らないのはありがたかった。小屋から1時間ほど下ってから、ワリモ岳へ戻り、鷲羽岳(わしばだけ)へ向かう。東側が切れ落ちる細い登山道が苦手だった。ゆっくり、一歩1一歩足場や手の置き場を確かめながら歩いていると、いつの間にか通過していた。

 晴天の中、鷲羽岳山頂にたどり着いた。噴火口が池となった鷲羽池の向こうに槍ヶ岳(やりがたけ)が見える。

晴天の北アルプス鷲羽池と槍ヶ岳

 三俣山荘に着いてから双六小屋へ向かう道、2羽の雷鳥に遭遇。オスはすぐさま逃げたが、メスはじっとその場を離れなかった。そっと近づき至近距離で撮影した。羽の模様が一枚一枚、微妙に違うことが興味深かった。

デート中だったメスの雷鳥

 1日目に泊まった双六小屋に再びお世話になり、星を眺めるなど、山行最後の夜を楽しんだ。

 最終日も晴天。テント場には水晶池で鉢合わせた男性がテントを張っており、今度は笑顔で挨拶した。会社を辞めてテントを担ぎ、北アルプスを歩いているのだとか。これから槍ヶ岳に向かってさらに大天井岳(だいてんじょうだけ・おてんしょうだけ)、燕岳(つばくろだけ)を経由し、中房(なかぶさ)温泉に下るとのこと。筆者は小池新道から来た道を新穂高温泉へと下山した。

■温泉あり出会いありの5日間

 「温泉に入りたい!」を叶える5日間の北アルプス登山だったが、夏の花の盛りは過ぎて、紅葉までは少し早い9月上旬、少し静かな山登りと、貸し切りの温泉が楽しめた。

 雷など午後に多い天候の急変には気を付け、全日13時頃までには宿泊予定の小屋に着くプランで歩いた。また、日数の多い山登りは疲労から思わぬ事故を引き起こすこともある。力量に合った行動時間で安全に登るよう心掛けたい。

 

<山行プラン>
【1日目】新穂高温泉(4:30)~鏡平小屋(10:00)※30分休憩~双六小屋(13:00)
【2日目】双六小屋(7:00)~双六岳(8:00)~三俣蓮華岳(9:30)~雲ノ平山荘(13:00)
【3日目】雲ノ平山荘(6:00)~高天原温泉(8:30)※1時間入浴~水晶池(11:00)※昼食~水晶小屋(13:30) ※天候確認し荷物を置いて水晶岳往復~水晶岳(14:50)~水晶小屋(15:30)
【4日目】水晶小屋(7:00)~鷲羽岳(9:30)※20分休憩~三俣山荘(10:40)~双六小屋(13:30)
【5日目】双六小屋(7:00)~鏡平小屋(9:00)~わさび平小屋(12:00)※30分休憩~新穂高温泉(13:30)

●【MAP】高天原温泉

●【MAP】水晶岳