北アルプスのほぼ中央に位置する水晶岳(すいしょうだけ・標高2,986m)の麓に沸く「高天原温泉(たかまがはらおんせん)」は、徒歩で12時間以上かかることから「日本一遠い温泉」と呼ばれている。
高天原温泉へのルートは大きく分けて3つある。富山市折立(おりたて)から太郎平(たろうだいら)小屋を経由するルート、長野県大町市の高瀬ダムから野口五郎岳(のぐちごろうだけ)を経由するルート、それから岐阜県新穂高(しんほたか)から双六(すごろく)小屋、雲ノ平(くものだいら)を経由するルートだ。
ある日雑誌で高天原温泉の白い湯を知った筆者は、どうしても入りたくなり、富山市折立から太郎平小屋を経由するルートで訪問した。大勢の人が順番待ちして入浴するような状況だったが、それでも大感激だった。その後も訪れたが、やはり満員御礼だった。
ゆっくりと温泉を味わいたかった筆者は、またしても高天原温泉を目指した。何度か行けば、いつかはゆっくり入浴できるかもしれない。今度は岐阜県新穂高からのルートを選んだ。ある年の9月上旬、残暑厳しい5日間、女性単独での山行だった。
■暑い小池新道を登り、かき氷に癒される
首都圏からマイカーで夜中に岐阜県新穂高に到着。車中泊し、4時半に歩き出したが、小池新道は南側の斜面を登るからとにかく日差しが強い。木陰に乏しいのだ。カメラを含む20㎏近い荷物がずっしりと重い。なんとか鏡平(かがみだいら)山荘に着くと「かき氷」の文字が目に入り、即決で注文。冷たさと甘さがダイレクトに体中にしみわたる。
かき氷パワーに背中を押されて、弓折乗越(ゆみおりのっこし)を越え、双六小屋に着いた。天気予報では数日間ずっと晴れの予報。無事到着した安堵感とともに、翌日向かう雲ノ平とその先の行程が楽しみになった。
■黒部水源を渡り、雲ノ平山荘へ
翌朝食事を済ませると、2日目も晴天の予報。この日は双六岳、三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)を歩き、黒部源流を渡って雲ノ平山荘の予定だ。
「ゴオゴオ」と流れる黒部源流の水を眺めて、急峻な斜面を登ると雲ノ平だ。山荘で受付を済ませ、夕食後雲ノ平の「スイス庭園」と呼ばれる場所から水晶岳(すいしょうだけ)を眺めた。だんだんと青白く変わりゆく水晶岳が、幻想的な風景を作り出していた。