きっかけは熊野古道。緑豊かな山々が連なる古道を歩きながら「こんなに美しい景色が日本にはあるんだ」と感動し、「高い場所に登れば、もっと美しい景色が待っているのかもしれない」と感じた友人は、2023年春、生まれてはじめて山に登った。そこから1年、少しずつ体力と登山技術を身につけ、2024年7月下旬、アルプス登山のテント泊に挑戦を決めた。
この記事では、63歳の友人のはじめての「アルプステント泊」をレポートする。
■はじめての高山は、中央アルプス「木曽駒ヶ岳(長野県)」
今回、友人のアルプステント泊デビューのために選んだ山は、中央アルプスの木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)。長野県南部にある標高2,956mの山で、標高2,612mの千畳敷にある登山口までロープウェイを利用できる魅力的な山だ。
生まれてはじめての高山ということで、高山病の不安もあったが、ロープウェイを利用できる木曽駒ヶ岳は万が一、高山病の兆候がでても素早く下山できる。
また、千畳敷の登山口からテント場までは約1時間半ほどの道のりで、はじめての高山テント泊にはちょうどよい距離だ。
これらの理由から、筆者は日本百名山の一つの木曽駒ヶ岳を選んだのだが、彼女のはじめてのアルプスでのテント泊は、決して楽しい経験とはならなかった。
■千畳敷の花畑と富士山の姿に感動
木曽駒ヶ岳のロープウェイ乗り場までは、マイカー規制が敷かれているため、菅の台(すがのだい)バスセンターに車を駐車し、路線バスに乗る。
標高約1,662mのしらび平駅でバスを降り、ロープウェイに乗り換える。ここから千畳敷まで標高差950mを7分半で一気に上がる。
高山に弱い人はこの時点で高山病の兆候が現れるが、友人はまったく問題なさそうだ。しかし、無理は禁物。千畳敷カールの中を重さ約10kg以上のバックパックを背負い、大勢の登山者の中、3人でゆっくりと高度を上げていく。
この時期の千畳敷カールには、クロユリやハクサンイチゲ、ミヤマキンポウゲなどが咲き乱れている。天気は快晴、登山日和。はじめて見る高山植物の花畑と南アルプスの隙間から見える富士山の姿に友人は感動。休憩のたびに遠くに見える富士山の姿をスマホにおさめていた。
標高が上がるごとに風は強まり、時折吹く突風を警戒しつつ、乗越浄土(のっこしじょうど)にたどり着く。千畳敷カールを登り切った稜線では、いっそう激しい風が吹きすさんでいた。