群馬県のみなかみ町。谷川岳に代表される登山や、夏はキャンプ、ラフティング。冬はスキーやスノーボードなど、雄大な山、豊富な水といった自然の恩恵を活かした様々なアクティビティが盛んだ。もちろん温泉地としてもシーズンを問わず、多くの人が訪れる山岳、温泉観光地である。
そのみなかみ町において、JTB群馬支店がみなかみ町観光協会や地域の観光事業者の協力の下、取り組みをスタートさせたのが「Go!ME(ゴーミー)」プロジェクト。観光で訪れた人が、その地域で「お金を払ってゴミを処理してもらう」というもの。まず、スタートとして町内10か所に設置されたゴミ箱では、応援金という名のもと、有料で地域、事業者にゴミの処理をお願いするという仕組みである。
その場所に訪れる利用者も共にゴミの処理を負担していくことで、持続可能な地域共創を図る目的としたこのプロジェクトは、現在多くの観光地で抱えるゴミの問題を解決していく方法のひとつとなるのか。JTBがみなかみ町と共に掲げる山岳、温泉観光地のこれからについて訊いてみた。
■「つなぐ・つくる・つなげる」JTBがサスティナブルな交流創造事業の一環として、観光地のゴミ問題に積極的にアプローチ
現在、社として、その事業を“交流創造事業”と掲げるJTB。観光で訪れた地で、人と人、人と地域をつなぎ、その価値や共感といったところを創造し、未来につなげていく。といったようなこの交流創造事業として「Go!ME」プロジェクトがスタート。
ゴミは持ち帰るという選択肢に加えて、その地域で適切に処理してもらうという持続性を持たせた形で、これまで京都や川越、2022年には谷川岳への玄関口「谷川岳ロープウェイ」でも実証実験を行った。
JTBの担当者からは、これまでの実証実験において、京都のような都市部では、訪れる人の数に対して、決済率の低さが見られたという。そもそも、観光でその地を訪れた人々が、ゴミを捨てるのにお金を支払うという考えがないのではないか。これからはもっと目立つメッセージ、そして旅の前からそのメッセージを伝えていく必要性がある。しかし、アンケートからは否定的な意見は少なく、利用者の意識の変革について、その兆しは感じられたという。
2022年に実施した谷川岳ロープウェイでの実施実験では、都市部よりも決済率の高さが顕著であったという。やはり、登山など自然の中で遊ぶアウトドアユーザーの方が、ゴミや環境に対する問題意識の高さが見られた結果であろう。そして、このことが今回のみなかみ町で取り組むきっかけとなった。
■豊かな自然環境を守っていくために、みなかみ町が目指していくものとは!?
四季を通じて、多くの観光客を受け入れる地域側としてはどのように取り組んでいくのか。観光協会の担当者からは、都市部のようにゴミが溢れかえっているわけではないが、コロナ禍以降に増えたキャンプやBBQ利用でゴミの問題も発生するようになった。
また、長野県から群馬県に広がる上信越高原国立公園の一部として、谷川連峰を中心にゴミだけでなく、水やトイレなど、自然環境をいかに守っていくかということについては、常に懸案事項であったという。
そのような中、谷川岳ロープウェイが行った実証実験がきっかけとなり、さまざまなアウトドアアクティビィを楽しむことができる、みなかみ町の自然を守っていくためのひとつの方策として、町においても「Go!ME」を取り組むに至った。
このプロジェクトでは、ゴミ箱を設置することが目的ではなく、みなかみ町の自然を守っていくために、事業者、自治体含めて何ができるか、何が必要かについて、これからも検討を重ねていく必要があると語った。
■持続可能な観光地を目指し、訪れる観光客へ義務ではなく善意に頼った気軽な地域支援を!!
今回、みなかみ町に設置された「Go!ME」のゴミ箱は有料が義務化されたわけではない。あくまで我々、利用者が訪れた地域の環境を守っていきたいという善意で成り立つ事業となっている。そのため、支払いをせずにゴミを捨てることも可能といえば可能だ。しかし、自然の恩恵を受ける立場の我々、利用者が無責任ともとれる行動で、地域の負担を増やし、環境を維持することを困難にしてしまうことは、自らの首をしめることになるかもしれない。
決済方法はゴミ箱に貼られたQRコードを読み込み、クレジットカードやPayPayなどキャッシュレス決済するだけ。専用のアプリをダウンロードする必要もなく手軽にできるので、積極的に応援し、利用したい。
■いつまでも自然豊かな環境で遊ぶためにユーザーの意識改革がその一助となる
アウトドアに限らず、現在、観光地には世界中から多くの人々が訪れ、オーバーツーリズムという問題も発生している。宿泊や交通機関などのインフラでの側面はもちろん、環境面においてもゴミ箱は溢れかえり、食べ歩きのポイ捨ても問題となっている。
このような問題に対して、地域、事業者への人的、経済的負担は大きく、ゴミで溢れた景観は、その地を訪れたユーザーの満足度という点においてもマイナスへとつながる。
「Go!ME」プロジェクトは、これらの問題に対するひとつの方法として、もっと多くの地域に広がることが望ましいが、もちろんこれが全ての解決方法ではないだろう。こういった取り組みが他にもいろいろと生み出されていくことで、今後、何か別の形で当たり前のルールとなった取り組みが出来上がっているかもしれない。
地域、事業者の負担が無くなるわけではないだろうが、我々、利用者一人ひとりが自然の恩恵を受ける立場として、その地域に還元できるものは何か。役立てることは何か、共に考え、行動していく必要がある。
谷川連峰からしみ出た一滴が湯檜曽川から利根川にそそがれ、そして太平洋へとつながるように、一人ひとりの小さな善意の一滴が大きな流れとなっていくことに期待したい。