■ピークではなく、コースやテーマで楽しむ山歩き

植生豊かな伊豆の原生林。苔生す岩がいい雰囲気

 八丁池に向かうコースはいくつかある。もっともポピュラーなのは、天城峠から上り、御幸歩道で向かう道のり。ここは昭和天皇が八丁池を目指して歩いた道で、ブナやヒメシャラといった伊豆らしい植生を楽しめる森が素晴らしい。

 あたたかい黒潮の海が近いだけあり、霧や雨の多さからなのか、立派なコケが育まれているのも見どころ。ここのところは、西日本に分布するクマゼミが増えつつあるそう。山頂のないルートだからこそ、「植物が豊かな登山道で木花や野鳥などを観察する」といったテーマ探究型の山歩きをしてみるのも楽しい。

川端康成のレリーフが印象的な「伊豆の踊子文学碑」

 テーマといえば、川端康成もそのひとつになり得るだろう。天城峠は『伊豆の踊子』の舞台でもあり、ハイカーのみならず観光客も訪れる物語の聖地。旧天城峠は基本としておさえたいし、そこに向かう林道には「伊豆の踊子文学碑」がある。そのまま進めば旧天城トンネルもある。

難所の天城越えを回避するためにつくられた天城トンネル。1905年完成

 現在は国道414号の完成によって南北縦断が便利になったけれど、この旧道もまだ実際に使えるため、ハイカーだけでなく自転車やバイクなどの旅人とすれ違うことも多い。トンネルの雰囲気を味わいたいなら、ここだけを目的に訪れるのもありだ。

 天城峠の北には、川端康成が愛したという湯ヶ島温泉がある。旅館はもちろん日帰り入浴施設などがあるので、ここを拠点に天城峠の周辺を訪ねるのも、いい夏の過ごし方だと思うのだ。

 ちなみに、川端康成が『伊豆の踊子』を執筆したのは湯本館。書き物をする身としては、一度は泊まってみたい宿である。

<低山トラベラー厳選。天城峠・八丁池周辺の立ち寄るべきスポット>
【日帰り温泉】湯ヶ島または修善寺が便利
【日帰り温泉】雰囲気のある源泉の湯治宿「テルメいずみ園」は日帰り入浴OK
【宿泊】川端康成ゆかりの宿「湯本館」にはいつか泊まってみたい
【カフェ】サンドイッチが抜群に美味しい湯ヶ島のカフェ「pikiniki」
【観光】やっぱりはずせない「浄蓮の滝」
【観光】伊豆といえば「わさび」
【追いハイク】健脚なら「天城山」まで!
【追いハイク】ススキと風車で有名な「三筋山」まで縦走も可能