■体力が向上し、登山が楽しくて仕方がないと思っていた矢先、新たな難関が立ち塞がる
山登りに必要な体力は山登りでつけられることを知ってからは、可能な限り山岳会の活動に参加した。1年が経過すると、筆者の体力は、階段で息を切らしていたころとは比べものにならないほどに向上していた。
しかし、現実はそれほど甘くはない。新たな難関が筆者の前に立ち塞がる。ある日の下山中に突然、膝に激痛が走った。痛みに耐えながらなんとか下山する。それからというもの、下山のたびに膝が痛み、メンバーから後れをとるようになった。整形外科でレントゲン検査してもらうが異常なし、接骨院や整体にも通ってみたが治らず、原因不明。そんな状態が1年以上続き、これ以上メンバーに迷惑をかけるわけにいかないと思い、腹をくくった。
登山の帰り、「痛むのであれば、辞めるしかないよね」と言われるのを覚悟して、治らない膝の悩みをリーダーに打ち明けた。しかし、リーダーの返事は予想外だった。
「膝の痛みね、みんななるよ」
「え? みんな?」
「着地の際、膝の向きをこまめに変えたり、登山道を端から端までいっぱいに使ってジグザグに下りたら、痛みがマシになるよ。どうしても痛かったらサポートするし、ゆるい林道を歩くときは後ろ向きで下山するのもありだよ」と。不思議なもので、しばらくすると膝は痛まなくなった。
■夢だった「八ヶ岳」に登頂
山岳会に入って4年目の2018年1月、チャンスがやってくる。八ヶ岳登山の計画が浮上したのだ。それも雪山。ピッケルとアイゼンを使用した登山は経験済みだった。このチャンスを逃したら、いつ次の機会がやってくるかわからない、今しかない。思い切ってエントリーし、夢だった八ヶ岳の「天狗岳」に登頂した。
初めての八ヶ岳は氷点下10℃以下、「寒い」以外の言葉が出てこない。意外なことに一度経験すると、さらにチャンスに恵まれ、今日まで13回八ヶ岳に登った。周りからは「また八ヶ岳に行くの? 好きだね」とよく言われる。それもそのはず、筆者の住む関西から八ヶ岳までは車で約5時間もかかるのだから。
■まずは一歩踏み出すこと
あのとき、登山を始めていたからこそ今の自分がある。生きがいとなる趣味を見つけ、人生いくつになっても挑戦できることを知った。実に、私のまわりには60歳から登山を始める人もたくさんいるのだ。
もちろん何かを始めるにはお金もかかる。しかし、健康的な生活と生きがいのある人生と引き換えに、今まで登山に費やした費用を利息つけて返してくれると言われてもお断りだ。仲間と一緒に新しい山に挑戦している今が、とても楽しいからだ。
一見無理に思えるようなことでも、行動したからこそ生きがいを得た今がある。ぜひあなたも、やりたいことがあるなら一歩踏み出してほしい。きっと新しい世界が開けるはずだ。