■カリカリの斜面に悪戦苦闘
渋峠スキー場を滑り降りたところからがバックカントリーエリア。そこは、ちょうど長野県と群馬県の県境です。ワクワクする気持ちでスキー板にシールを張り付け、冬季閉鎖となっている国道292号線を進んでいきます。道路標識の脇をスキーで歩くというのは少し不思議な気分。最高速度40kmとは無縁のカメ足でのんびり歩くのでした。
ほどなく、「日本国道最高地点」に到達しました。しかも、目の前にはおいしいスロープが広がっています。すぐにでも滑り出したい気分でしたが、雪はカチンコチンに固まっています。おいしい食事を目の前にしたものの食べることができずに立ち去る気分で、滑りやすそうな斜面を求めて国道をさらに進むことにしました。
山田峠を越え、草津白根山まで行ったところで休憩タイム。ポケットからちょっぴりつぶれた感じの「雲の上のパン」を引っ張り出し、パクリ。ハイクで疲れた体に、濃厚なチーズが染み込んでいくのがわかります。広い雪原を眺めながら、おいしいパンを頬張る。こんな贅沢体験はなかなかできるものではありません。
ひと息ついた後は、いよいよ滑走タイム。しかし、目まぐるしく変わる雪質に、軟弱脚の持ち主である筆者は大苦戦。アイスバーンかと思いきや、パウダー。歓喜の声を上げた次の瞬間には2cmほどの厚さの氷にパックされたクラストした雪が現れるという状況。苦労しながらも、自然と向き合う楽しさを存分に感じながらその日の宿「芳ヶ平ヒュッテ」にたどり着いたのでした。
■芳ヶ平ヒュッテで豪華なディナーを楽しむ
玄関口では、セレン・クッカ・トゥーリの3頭のビアデッドコリーから熱いキスの嵐です。その日の滑走の苦労が吹き飛んでしまうほどの熱烈歓迎ぶりでした。
燃える薪の香りにホッと一息をつき、気持ちの良いシャワーを浴びるとお待ちかねのディナータイムです。
ランプが灯されると、夕食が運ばれてきました。手作りハンバーグや香り豊かなニンニクのスープ。ジャズの調べを楽しみながらキャロットサラダに舌鼓を打ち、その日のツアーを振り返っての話に花が咲きます。自分たち以外に誰もいない大自然の芳ヶ平の夜を独り占めしていると、昼に食べた雲上のチーズパンも含め、バックカントリーツアーに来ているというより、秘密のグルメツアーに参加しているのではないかと錯覚するほどのひと時でした。