■ブッシュクラフトは生き方に似ている

スティーブンさん。東京で大学の講師もしている

 イギリスには『Experience is the teacher.』という言葉があり、その意味は『経験こそが先生だ』ということだそう。

 「焚き火でもナイフでもなんでもいいから、まずは経験をしてみて欲しいです。ブッシュクラフトはWay of life(生き方)みたいなものです。Knowledge(知識)とTechnique(技術)が大切なんだ。あとはもちろんExperience(経験)だね。その人次第でカジュアルにもできるし、深く学ぼうと思えばどこまでも学んでいけます」

 「でも、ブッシュクラフトではCheat(ズル)はできません。自然が相手で自然が先生だからです(笑)」

焚き火の準備をするリーさん。現在は神戸在住

 「日本のオートキャンプの人たちは、まるで家の中みたいに沢山の道具を持っていくでしょ? それもありなんだけど、ちょっと多過ぎなんじゃない? と思うんだ。ブッシュクラフトはそれとは違う。知識と技術があれば道具は少なくて良いんだよ」

 確かにリーさん達の道具は、ノコギリとナイフ一本とアックスくらいだった。これだけあれば、木を切って屋根も寝床も作ることができるので、時間さえあれば小屋だって作れるのだと言う。

スティーブンさんのベルトに取り付けられた道具。これでほとんどすべてのことを賄える

 「カナダ人のブッシュクラフトの先生の言葉で、『The more you know, the less you need to carry.(知れば知るほど運ぶ必要がなくなる)』という言葉があります。ブッシュクラフトは知れば知るほど道具を減らすことができるんだ」

■コロナ後の社会では、自然の中で遊ぶことが重要になるはず

英国軍のタープとハンモックを組み合わせたリーさんの寝床

 「After Covid(コロナ後の社会)では、自然の中で遊ぶ、ブッシュクラフトみたいなことが重要になってくると思う。これからはもっとWell-being(心地よく過ごす)とか、Mindfulness(幸福)が大切になると思うんだ。だからみんな森の中でブッシュクラフトをして、心のバッテリーをチャージして欲しいんだ。1人でやるのも良いけど、家族や仲間、皆でやったほうが楽しいと思う。人間はSocial animal(社会的な動物)でしょ?  1人でこの森に泊まったら怖いかもしれないけど、何人かで来たら全然違うと思うんだ」

プライベートキャンプ場に張られたパラシュート。焚き火の上昇気流で膨らんだ姿は、まるで大きなキノコのようだ

 「ブッシュクラフトは大きな傘みたいなものです。その下に、いろいろな要素がぶら下がっています。ハンティングとかウッドクラフトとか、他にもたくさんのことがあります。どう楽しむかの、Context(文脈、属性、脈略)がとても大切です。ブッシュクラフトっていうのは、誰でも楽しむことができるからこそ、まずは小さく始めて、自分の興味に合わせて徐々に大きく広げてみて欲しい」

 大きなパラシュートの傘の下でリーさんはそう言って笑った。

ダッチオーブンでパンを焼き、更にスープも作る。野外料理の腕も相当なものだった