登山では天候や気温が大きく変化する中でも体温を保ち、濡れや蒸れを軽減するため、ウェアを重ね着するレイヤリングはとても重要だ。
筆者は過去に秋口の登山で、日帰りだからと化繊のウェア一枚だけで山行したことがあった。汗で濡れたまま長時間歩き、山頂や下山時に「汗冷え」してしまい、大変な思いをした経験がある。このときの失敗から学び、筆者はベースレイヤーにドライ系のアンダーウェアを着用するようになった。
この記事ではレイヤリングのベースとなるアンダーウェアとミドルウェアに絞り、選んではいけないNG素材とおすすめの素材を紹介する。寒い時期の登山の参考になれば幸いだ。
■レイヤリングとは?
レイヤリングは、服に役割を持たせて重ね着し、体を快適に保つようにするものだ。状況に応じてウェアを脱いだり重ねたりすることもある。
地肌に近い順でベースレイヤー、ミドルレイヤー、アウターレイヤーとなる。最近ではベースレイヤーを重ねてより汗抜けをよくする登山者もいる。
アンダーウェアの役割は、汗を素早く吸収して素肌を乾いた状態に保つことだ。これに対してミドルウェアの役割は湿気を外に逃がし、保温する役割となる。
■アンダー&ミドルレイヤーの「NG素材」と「おすすめ素材」
アンダーウェアとミドルウェアの選び方を間違うと、どんなに高機能のアウターを着用したとしても、レイヤリングの効果は存分に発揮できない。まずはウェア類の素材について知っておきたい。
●アンダー&ミドルレイヤーのNG素材
アンダーとミドル、どちらにも合わないのは綿(コットン)だ。綿素材は水分を吸収しやすい反面、乾きにくいといった特徴がある。衣服が湿った状態のままで長時間着用していると蒸発とともに体温が奪われてしまうため、低体温症のリスクが高くなる。
また、夏用の衣服として使われているレーヨンも避けたい素材の一つだ。速乾性は綿よりはよいとされるが、やはり乾きにくいため体温が奪われやすく登山には不向きと言える。筆者がこれまで試してきた中でのアンダーとミドルの相性は次の通りだ。
メリノウールは吸湿速乾性が高く、体温を適温に保ってくれるが、重ね着すると暑くなりすぎるので注意したい。
遭難時に低体温症になりやすいかどうかはレイヤリングの素材選びにも関わってくるといって過言ではない。日帰り登山だから、低山だから、といった理由で綿素材やレーヨン素材を着用するのはおすすめできない。たとえ数時間の山歩きであっても、保温着やツェルトを携帯し、アンダーウェアやミドルウェアを着用して万が一に備えたい。
●使って分かったおすすめ素材
筆者がミドルウェアに着用しているのは100%化繊のポリエステルだ。速乾性が高く、汗をかいてもすぐに乾くので「汗冷え」しにくい。また、アンダーウェアにはナイロン100%のドライ系アンダーウェアを着用している。汗抜けがよく、素早くミドルウェアに汗を逃がすため、べた付きがほとんどない。
どんなにミドルウェアがよい素材でも汗でアンダーウェアが濡れていては保温ができないため、素肌に触れるアンダーウェアには気を配りたい。
●メリノウールの意外な落とし穴
メリノウールもアンダーウェアにおすすめ。メリノウールは水分を吸収して保温するが、繊維が細く水分を中に取り込む性質を持っているため汗冷えしづらい。防臭効果もあり数日着用していても臭いにくいので登山には最適といえる。
ただ注意して欲しいのは、厚手のものをアンダーウェアとして着用すると、暑くなりすぎることがある。筆者は寒がりなのでメリノウールは中厚手を着用しているが、冬でも汗だくになるような暑がりの人は薄手のものが良いだろう。レイヤリングはそれぞれの服に役割を持たせることと、自分の体質に合った素材を選ぶことも重要である。
■「ジッパーやボタンを開ける」「脱ぐ」「着る」で体温調節
冬登山での筆者はベースレイヤーにドライ系のアンダーウェアを着用し、その上にポリエステル素材のウェアを2枚重ね着し、アウター代わりにレインウェアを着用している。登山中、汗をかいて暑くなった時はミドルウェアのジッパーやボタンを開けて熱を逃がして体温を調節している。
【筆者の冬山レイヤリング例】
アンダーウェア:ポリプロピレン66% ナイロン28% ポリウレタン6%(ミレー/ドライナミックメッシュ)
ミドルウェア1:100%ポリエステル(モンベル/WIC.T)
ミドルウェア2:100%ポリエステル(アクシーズクイン/凌)
レインウェア:100%ナイロン(ミレー/ティフォン50000)
冬山のレイヤリングは単に暖かければ良いというわけではない。長時間の歩きで汗をかき、こもった熱を逃し、体温上昇を抑えて「汗冷え」を防がなければならない。そこで重要となるアンダーウェアとミドルウェアを適切に選ぶことができれば登山は快適となり、万が一遭難した際にも必ず役に立つはずだ。ぜひともこの記事をレイヤリングを考えるきっかけに役立てて欲しい。