■ムササビ発見!
日没後30分位すると、あたりから、「カサカサ」という音が聞こえてくるようになります。ムササビが巣穴から出て活動を始めた音です。この日もドキドキしながら目の前の巣穴に赤い光を当てながら双眼鏡でのぞいていましたが、残念ながら巣穴からムササビが顔を出すことはありませんでした。
でも巣穴からムササビが現れなくても、がっかりする必要はありません。静かに歩き回りながら、ムササビの出す音を逃さず聞き取るようにします。「グルルルル……」「キュルキュル」という独特な鳴き声も聞こえてきました。
「ガサッ!」突然、近くで大きな音がしました。ムササビが、木の枝の中に突っ込んだようです。そっとライトを当ててムササビの姿を探してみます。なにかの探検隊になったかのような気分です。その頃にはあたりも真っ暗。赤いライトの光が暗闇を照らします。
すると、目の前にムクノキで実を食べているムササビが浮かび上がりました。たった数メートルしか離れていない至近距離です。意外なことにムササビの警戒心は弱いようで、筆者の姿を気にするそぶりはありません。
■期待の大滑空でしたが……
そのうち満腹になったのか、ムササビはモフモフのあたたかそうな尾を揺らして木を登っていきました。もう姿は見えません。
さあ、そろそろ期待の大滑空をしそうな感じです。息を止めて、カメラを構えます。どのあたりからどのタイミングで飛ぶのかはムササビ次第。緊張感が高まります。
次の瞬間。すーっとムササビがグライダーのように空中を滑ってくるのが見えました。「空飛ぶ座布団」と呼ばれるムササビの滑空です。慌ててシャッターを押すと、ストロボの光でムササビの姿が浮かび上がりました。やった~! すぐ目の前を飛んだムササビの姿をバッチリ写真に収められたはずです。これまで観察してきた中で、最も近くてはっきり見ることができた滑空でした。
観察後、ワクワクしながら写真のチェックをしていきます。ストロボのチャージが間に合わず、真っ黒なコマも多数あります。焦って連写をしてしまったのでしょう。そして、楽しみにしていた滑空の写真を見ると……。なんと写っていたのは、真っすぐに伸びた尻尾だけでした。ムササビが飛ぶところの撮影は、ファインダーを覗かず、報道カメラマンのように「勘」でレンズを向けてシャッターを切ります。しかし、未熟な筆者の腕では、残念ながらムササビの飛行スピードにカメラが追い付かず、このような写真になってしまいました。
でも、私のまぶたの奥には、ムササビが夜空を音もなく飛んで行った姿がしっかり残っています。「気にしない。また会いに来るから」と自分に言い聞かせ、夕食の待つ自宅へ向かいました。次の週末には、また同じ公園で木の上を見上げる筆者がいるはずです。