各地の末端地域で生まれた缶詰を深掘りし、その土地の食文化を読み解く「日本末端缶詰紀行」。今回は缶詰そのものではなく、缶詰を使った郷土料理を取り上げたい。京都の北端、京丹後地方にだけ伝わるサバ缶料理「丹後ばらずし」であります。
同じ京都でも、駅弁や空弁で有名になった「さばずし」は、しめサバや焼きサバで作られる。つまり原料は生サバだ。対して丹後ばらずしは、サバのしょう油煮缶詰を使って作られる。かつては丹後半島周辺で獲れた生サバを使っていたが、戦後間もない頃から缶詰が使われるようになったという。
興味深いのは、丹後ばらずしが“ハレの日”のごちそうであること。祝い事などがあると、家庭で作ったり、仕出し弁当で買ってきたりする。そのたびにサバ缶が大量に使われるため、同地域では内容量370gという業務用のサバ缶がスーパーに並んでいる(通常のサバ缶は150〜180g)。僕も現地で見たけど、直径約10cm、高さ約6cmのサバ缶が山積みになっている様子は圧缶(圧巻改め)でしたぞ。
■使うサバ缶は、しょう油煮一択
丹後ばらずしは、サバ缶を炒りつけてそぼろ状にしたものが具になる。ゆえに、サバ缶の種類はしょう油煮タイプの一択しかない。ここ、大事!
一度、水煮とみそ煮で試してみたら大失敗だった。水煮は塩味だから、しょう油を加えないとすし飯の具として味が物足りない。で、しょう油を加えたらしょっぱくなってしまった。みそ煮のほうは、味自体は悪くなかったけど、すし飯との相性はイマイチ、いやイマニだった。
で、今回使ったのは清水食品の「うまい! さば醤油煮」という缶詰。しょう油の味と香りが際立っていて、加熱後も残るのがいい。少量の酢が入っているのも特徴で、そのおかげでキリッとした風味が味わえる。