ところがその直後、あたりが闇に包まれた。闇の中で立っているのは筆者一人だけ。雨は止み、風も弱くなっていた。テントに戻ると水没などしておらず、中の荷物は乾いていた。よくよく考えてみると、ここは廃村。村の人たちがいるわけがない。

筆者が長年愛用しているダンロップテント(撮影:野口宣存)

 恐らくこの村の過去の住人たちが、今も山に入る筆者を見守ってくれていたのであろう。怖いという気持ちはまったく湧いてこない。むしろ感謝の気持ちでいっぱいだった。

 なお、村の人たちにも伝えたのだが、筆者はこの山行きに際し、天気予報をしっかり確認している。そこで快晴という予報だったので山行きを決行したのだが、後から確認すると、ピンポイントでその山一帯が嵐になっていた。山に行く際、天気予報をしっかりと確認するのは基本だが、それでも想定外の天候になることもあるのだ。

 北陸地方には「弁当忘れても傘忘れるな」という格言があるらしい。今回は北陸の山ではなかったが、いずれにせよ山の天気は変わりやすい。それゆえ余裕を持った計画と準備が大事であるということを、筆者は村の人たちに教えてもらった。今後も見守ってくださる先人たちへの敬意と感謝を忘れず、これからも山を楽しんでいきたい。

■最後に

 今回は、筆者が経験した夏の山で起こった不思議な出来事を紹介した。筆者の場合山に入ると。動物ではない何かの存在を感じることがよくある。ひょっとするとそれは「山神様」かもしれないし、また、違ったものかもしれない。むやみに恐れる必要はないが、とはいえ侮ってもいけないと思う。

 大事なのは、山に対して敬意を払い、楽しませていただいているという心。そして山行きには計画と準備を怠ってはいけない。万一、悪意と遭遇した場合は逃げるの一手。「逃げるが勝ち」なのである。この怪談を通じて、アウトドアの楽しみ方について考えていただくきっかけになれば、幸いである。