■嵐の夜に廃村で

とある山奥の沢(撮影:野口宣存)

 ある日、筆者は泊まりがけで、単独行の夏山歩きに出かけた。この山行きは登山ではなく、自然歩道のハイキングに近いもの。山中の古道を歩いたりする、山そのものを楽しむのが目的だ。

 ところが山に入った初日、快晴だった午前中とは打って変わり、昼過ぎから天気が急変して嵐となった。そのため足場も悪くなり、何度も転倒。体中が捻挫や打ち身で痛む中、あたりには霧が出てきて視界が悪いうえに日暮れも近づいていた。

 これ以上進むのは危険と判断し、付近で安全な野営地を探すことにした。すると幸いなことにすぐに廃村を発見し、避難することにした。その廃村は、どの家屋も朽ちて森に飲み込まれかけており、廃村になってからかなり時間が経過しているようだった。

 なお、暗くなってから嵐の中でテントを設営するのは大変なので、明るいうちに安全な野営地を確保しなければならない。廃村の横を流れる沢は嵐で増水しているので、できるだけ沢と廃村から遠くにテントを設営したいところだが、離れすぎると廃村を囲む杉林の木々が嵐にあおられ、テントの上に倒れてくる可能性もある。

 なかなかテントの設営場所を決められず廃村内を歩いていると、廃村の外れに大きな広場を見つけた。ここなら沢の増水も大丈夫そうだし、倒木の下敷きになることもなさそうだ。

 そこで急いでテントを設営。強風に飛ばされないように10数本あった手持ちのペグをすべて打ち込んだ。テント設営が完了すると、あたりはすっかり暗くなっていた。筆者のテントは風に強い山岳用だから大丈夫だと思いたいのだが、風に煽られ漫画みたいに斜めに変形している様子を見ると、不安が増す。

 ともあれ、疲労困憊だった筆者は早めに休むことにした。テントに入ると緊張が解けたせいだろうか、捻挫と打ち身と筋肉痛で全身が痛み出した。もはやどこが何で痛いとかわからないので、とりあえず全身に湿布を貼る。そして簡単な食事を済ませると、そのまま眠りに落ちた。