「関東にある日本百名山をすべて踏破したい」と思いながら山岳雑誌を眺めていたとき、目に止まったのが埼玉県の奥秩父にある「両神山(りょうかみさん)」だ。

 行程が長く中級者以上向けで、古くから山岳信仰のある「霊峰」として知られている。登山道で神社や石像など、山岳修験道の面影に触れることができる神秘的な山だ。

 さっそく登山経験のある仲間を誘って、早朝から車で向かうことにした。

両神山の山頂付近からの展望。遠くには南八ヶ岳まで見渡すことができた(撮影:穂高カレン)

■神秘的な山岳信仰の山・両神山

「両神山荘」から続く日向大谷コースの登山口(撮影:穂高カレン)

 両神山は奥秩父を代表する山で、標高は1,723m。山頂付近の尾根が鋸の歯のようにギザギザとした岩壁になっているのが特徴で、離れた場所から見ても猛々しさを感じる。

 埼玉県内にある三峯山、武甲山と合わせて「秩父三山」と呼ばれており、古くから信仰のある「霊峰」として知られている。

 登山コースは、鎖場が多く難易度の高い「八丁尾根コース」、私有地を通る「白井差新道コース」など多数あるが、筆者は登山者が多く代表的な「日向大谷コース」で山頂を目指すことにした。

 いずれも6時間以上の長い行程のため、早朝に登山口に着くか、前泊がオススメ。日向大谷登山口の近くには、無料と有料(500〜1000円)の駐車場が計約70台分ある。週末の午前7時ごろに到着すると、すでに9割ほどがハイカーの車で埋まっており、人気の山であることが窺えた。

 日向大谷までは、西武鉄道西武秩父駅からバスを乗り継いでもアクセスが可能で、登山口にある「両神山荘」に前泊すれば、早朝から登山が楽しめる。両神山荘から続く入口で登山届を提出し、いざ「霊峰」へ出発!

■ほら貝響く山道、神社には「お犬様」

両神山の登山道にある両神神社の鳥居(撮影:穂高カレン)

 始めは樹林帯の歩きやすい道を進む。登山口からわずか200mほどで、最初の鳥居が見えてきた。登山道に沿うように石像が随所に置かれており、見つけるたびにありがたい気持ちになる。山岳信仰の雰囲気を感じつつ、安全登山を祈願して、さらに足を進めた。

 両神山の名前の由来は諸説あるが、国生みの神話で知られるイザナギノミコトとイザナミノミコトの両方の神を祀ったことから「両神」と呼ぶ説や、龍の神を祀るという「龍神」が転じて両神となったとの説が有力だとか。

 日本武尊(ヤマトタケルノミコト)伝説も伝わり、日本百名山の著者・深田久弥は、こうした信仰の歴史を百名山に選定した主な理由として挙げている。

 筆者が登った日、白い衣装に身を包み、杖やほら貝を片手に白足袋で山道を歩く「山伏」を6人ほど見かけた。山伏たちは、神社や鳥居で拝んだり、魔除けなどのためにほら貝を吹いたりしながら山道を黙々と進んでいった。

 ほら貝の音色が響く、木々の間から光が差し込む登山道は何とも神秘的な空間だ。

 尾根にある神社で出迎えてくれるのは、しっぽが長く牙も鋭い「お犬様」の石像。日本武尊の道案内をした狼を神の使いとして崇めてられているとされ、境内に置かれた「狛犬」は狼の姿をしている。

 長くうねったしっぽと、愛らしいお犬様の表情にしばらく見とれてしまった。

両神山にある狼の姿をした「お犬様」像(撮影:穂高カレン)