■下山時にすれ違った高齢の男性からいただいた言葉

下山中、登りの登山者を優先するため広くなった登山道脇で待機する(撮影:兎山 花)

 今回下山時のマナーとして、登山道は基本的に登り優先と伝えていた。下から登ってくる登山者に気がついたら、離合しやすい安全な場所で山側を背にして待つ。その際は必ず登山者と正体し、危険なので間違っても登山者に背を向けてはいけない。彼女たちは教え通りに登り優先で登山道を譲っていたが、そのうち気がついたようだ、人によっては待たれていることで焦って登る人や、急な登りの手前では一息つきたい登山者もいるということに。

 それに気がついてからは登ってくる人の様子を見て、登り優先にとらわれず、臨機応変に道を譲れるようになった、そして「こんにちは」だけでなく「頑張ってください」「お気をつけて」などの言葉が自然に口から漏れるようになり、すれ違いざまに登山者と会話する余裕も出てきた。

 そんななか出会った高齢の男性から「山頂からの景色は見られましたか」と声をかけられ、2人が山頂からの景色に感動したことを伝えると、「それはよかったね〜。頑張って登った甲斐があったね。それは人生のお土産だね」と深い言葉をかけていただいた。2人は70代ぐらいの登山者にいただいた「人生のお土産」という言葉に深く感動した。

■2人が思う登山のプロとは

 順調に下山し、午前8時30分に合戦小屋まで下りてきて、ひまりは念願のスイカを注文した。登山道には要所に休憩場所として登山口より第一ベンチ、第二ベンチ、第三ベンチ、富士見ベンチ、合戦小屋が設けられている。登りと同じように各ベンチで休憩して、午前11時前に登山口の中房温泉へ無事下山する。危ぶまれていた悪天候も回避でき、2日間とも登山中は雨に打たれることもなかった。

燕岳までの登山道脇に群生している高山植物の女王「コマクサ(駒草)」(撮影:兎山 花)

 帰路の車の中で、今回の登山で印象に残ったことを2人に聞いてみた。

 「あの赤い服のおばあちゃんに見せてもらったスマホの中の写真がすごかった。そこには自分たちが気付かなかった、たくさんのお花の写真があった。普通なら絶景やご来光の写真ばかりのはずなのに、もう何度も何度も山に登って景色やご来光はたくさん見ているからこそ、自分たちとは見えているものが違うんだ、だからおばあちゃんは登山のプロだと思った」とさくらが答えた。

 そして「今回、雨でも燕岳に登りたいと言ったのは、先生や友達に登ってくると言った手前やめることができなかったから。無事登頂してみんなからすごいと言われたかった。志望大学選びも同じで自分が行きたいというよりも、みんなから「さくらちゃんすごいね」と言われたいだけなのかもしれない」、そうさくらが心の声を漏らした。

 娘のひまりに「今回一緒に登山して、私と同年代のおじさんやおばさん、もっと年配の人がたくさん山に登っていることに気がついたと思うけれど、なぜ忙しい合間を縫ってでも山に登るんだと思う?」とたずねると、しばらく考えたあと「たぶん達成感だと思う」とひまりは答えた。

 その後、さくらは志望大学や自分のやりたいことについてもう一度考え、大学進学を考えていなかったひまりも、進学について考えるようになった。そしてまた山に登ってみたいと2人は言ってくれ、この言葉が母親である筆者には一番嬉しい言葉であった。

<前編から読む 出発の「朝の悲鳴」&いちばん「難しいこと」とは? 燕山荘1泊2日「登山レポ」
さくらが書いた書、女子高生らしい表現がおもしろい(撮影:兎山 花)

燕岳所要時間
・合戦尾根〜燕山荘まで上り約4時間30分、下り約2時間50分
・燕山荘〜燕岳 往復約1時間(休憩含まず)

燕山荘
・電話番号 0726-32-1535(予約専用松本事務所)

【ホームページURL】https://www.enzanso.co.jp/enzanso

合戦小屋(燕山荘グループ)
・電話番号 090-1420-0008(合戦小屋には電話がないので燕山荘に問い合わせ)

【ホームページURL】https://www.enzanso.co.jp/kassengoya

※営業日時はホームページよりご確認ください
※この記事の情報は2023年7月現在のものです。内容が変更される場合もありますので、最新の情報はリンク先のHPでご確認ください。

 

●【MAP】燕岳