栃木県最北端に位置する那須岳は、今も噴煙が上がる茶臼岳(標高1,915m)を主峰とする連山。那須ロープウェイを利用すれば、9合目まで上がって1時間もかからず登頂できる手軽な登山が楽しめる。大パノラマの茶臼岳に登り、朝日岳(標高1,896m)、三本槍岳(標高1,916m)の主要三山を縦走するのも人気のルートだ。日帰りでめぐることもできるが、山の奥地にある三斗小屋温泉には、2軒の小屋がひっそりとたたずんでいる。そこは歩いてしか行けない秘湯。今回は、この山奥の温泉地にある山小屋、「三斗小屋温泉大黒屋」での極上体験を紹介したい。

■江戸時代から続く「三斗小屋温泉大黒屋」

那須ロープウェイからの登山路から見上げた茶臼岳。三斗小屋温泉は山の裏手にある

 三斗小屋温泉があるのは朝日岳の西斜面。ロープウェイ側から見ると茶臼岳の裏側にあたる。アプローチは茶臼岳から峰の茶屋を経由して山を下るか、紅葉の名所として知られる姥ヶ平を抜けて向かう方法となる。朝日岳からなら熊見曽根分岐で西側に降りて向かうことができ、那須連山のさまざまなポイントから行くルートがある。峰の茶屋からなら1時間ほどの距離。三斗小屋温泉に着くと山中の開けた場所に宿が建ち、まるで集落のような雰囲気だ。明治初期には5軒の宿があったというが、現在では2軒が営業しているのみ。「三斗小屋温泉大黒屋」がそのうちの1軒で、江戸時代から続く歴史のある山小屋だ。

■夜の山小屋はランプがともる

館内のあちこちにランプの明かりがゆらめいている

 標高1,500mに位置する三斗小屋温泉は、1142年に発見されたという歴史ある温泉。その昔、福島にいた富豪が落ちぶれて病に苦しんでいたところ、大黒様のお告げによってこの温泉に導かれ、湯治により回復したという伝説が残る。だから「三斗小屋温泉大黒屋」のシンボルは大黒様。本館入口の帳場には、打ち出の小槌と大袋を背負った大黒様の木像が置かれ、訪れる人を優しい表情で出迎えてくれる。明治2年築という木造の建物は、山小屋というより歴史ある旅館のような雰囲気。光沢のある板張りの廊下も勾配のある階段もどれも味わい深い。自家発電のため21時の消灯後はランプがともされ、廊下に置かれた台座のつきのランプがゆらめく雰囲気もまたいいのだ。

■風情のある源泉かけ流しの湯も見逃せない

景色を眺めながら湯浴みが楽しめる「大風呂」

 小屋の楽しみはやっぱり温泉。山小屋には温度の異なる2つの源泉があり、大風呂は熱め、岩風呂はぬるめの湯になっている。大風呂は窓に囲まれた開放的な浴室で、間近に茂る木々や谷越しに眺める山の景観が格別。一方、岩風呂はこじんまりとした浴槽で、泉温の低い湯に浸かりながらじんわりと体を温められる。風情のあるこれらの内湯は、それぞれ1時間ごとに男女交代で入浴するというシステム。入浴時間は風呂の前に張り出されているのでこれを確認しよう。