ハンモックはもともと、高温多湿な地域における快眠のための家具として生まれました。蒸し暑い時期でも地面より涼しく眠れるからこそ、長年にわたり、日常生活の道具として世界中で広く使われ続けてきたのです。ハンモックに横たわっていると、ちょっとした風が吹いただけでも背面が涼しく感じられることがあります。それは体全体が空気にさらされ、体温が放出されているからです。

 暑い時期に涼しく快適に過ごせるのはハンモックの特徴のひとつですが、裏を返せば寒さに弱いと捉えることもできるかもしれません。ハンモック泊経験者のなかには、「ハンモックは背面が寒くてつらかった」という意見もあります。しかし、本当にハンモックは寒さに弱い道具なのでしょうか。

■ハンモック自体に断熱性や保温性はない

 ここで整理しておきたいのが、ハンモックの役割です。ハンモックはあくまでも寝床にすぎません。ハンモックをテント泊装備の何かに置き換えるとしたら、グランドシートあるいはテントのフロアなどが、もっとも近い存在です。地面にグランドシートを敷いただけの状態を想像してみてください。当然ながら、寒い日に快適に眠ることはできません。

寒い時期は冷たい風が吹き抜ける背面の断熱が必要不可欠です

 つまりハンモック自体は、スリーピングマットやスリーピングバッグなどとは違い、本来は断熱性や保温性を担保しなくていい道具なのです。ハンモックの欠点といわれる背面の冷え(アメリカでは「Cold Butt(Back)Syndrome(背面冷え症候群)」と呼ばれている)は、ハンモック自体の欠点というよりも、道具に対しての認識不足と誤解から生まれた現象といえます。テント泊と同じように、ハンモック泊でも気温に応じた背面の断熱は不可欠なのです。

 とはいえ、ハンモックに横たわった状態は、地面に横たわるよりも風の影響を受けやすい(背面の下を風が吹き抜けるため)ので、寒さに敏感にならざるを得ないのは確かです。

ハンモック本体にマットやシュラフを組み合わせて、断熱性と保温性を補います

■単体で使用できる目安は「20〜23℃」以上

使い方次第では、雪中キャンプでも快適に過ごせます

 一般的に、ハンモックを単体で使用できるのは、気温が「20〜23℃以上」というのがひとつの目安(エド・スピアー著『Hammock Camping』、デレック・ハンセン著『UH』参照)とされています。

 耐寒については個人差が大きいため、この数値はあくまでも目安にすぎませんが、気温が23℃以上あれば、ハンモック単体、もしくは薄手のシーツが1枚あるだけで冷えを感じることは少ないでしょう。もし仮に冷えを感じたとしても、ちょっとした防寒着を羽織れば対応できる範囲といえます。

 しかし気温が20℃を下回ってくるあたりからは、冷え対策のために道具の追加が必要となります。四季の移ろいがある日本の山岳において、ハンモック単体で快適に眠れるのは、夏がメインになるでしょう。標高の低いエリアでなら、春でも暖かい日中なら快適に使えるので、まずは近場で日帰りから試してみることをおすすめします。