■グループでの発信にトライする生産者 〜若手生産者は物語を紡ぐ~

 次に訪れたのは、片平さんも経営に参画する共同茶工場「グリーンエイト」。その一角にあるカフェ「GREEN∞CAFE」(グリーンエイト・カフェ)に案内された。両河内地区の若手茶農家8人による「OCHANO-KAプロジェクト」の拠点だ。

 スマートなスーツ姿の“イケメン”茶農家として話題の彼ら。茶生産に取り組みつつ、生産者として直接消費者に訴えかけている。

 存在は知っていたけれど、話してみると戦略はビジュアルだけにとどまらない。彼らの戦略には物語性がある。日本茶の魅力を語る言葉がある。

 「茶の花を見たことがありますか? わさびは? 竹の花、これはさすがに見たことがないのでは?」と東京から来た私たちに問いかけるグリーンエイトのメンバー、北條さん。手を上げる人はほとんどいなかった。

 北條さんは「私たち8人は毎日茶畑の中で仕事をしています。茶の樹にも白くかわいい花が咲き、実がなります。周りのわさび田も季節ごとに白い花で彩られます。竹の花は120年に一度しか咲かないといわれます。けれど毎日竹林に囲まれた茶畑で過ごす私たちは、見たことがあるのです」と続けた。彼が伝えたいのは、日本茶が育つ環境を知ってもらいたい、日本茶を取り巻く物語を実感して欲しいということだと思う。

 日本茶を袋に入った商品として手に取るだけじゃ伝えられないことがある。日本茶の魅力を生産地の物語にのせて発信する彼らの取り組みには共感を覚えている。

共同茶工場「グリーンエイト」の一角にて
「GREEN∞CAFE」(グリーンエイト・カフェ)の入り口
話を聞かせてくれた北條さん
若手茶農家の話をメモするステファン
提供してもらった和紅茶。繊細な味わい
「ほうじ茶ソフト」は北海道の余市のメーカーとのコラボ。これができるまでの物語は、実際に訪れて聞いてほしい

 伝統に裏打ちされた茶生産を受け継ぎ、良質な浅蒸しの緑茶を生産してきた両河内地区はアクセスも悪く、知る人ぞ知る茶作りの秘境のような場所だった。ところが、新東名の開通がこの両河内地区を東京方面から最もアクセスのよい茶産地にした。これから多くの人が訪れることになるだろう。名人の技を受け継ぐ若手の取り組みがスタートしているのも頼もしい。

 だけど、もちろん足りない部分もたくさんある。それを伝えたくて、私はカフェの外の茶工場の片隅で関係者らをつかまえた。「和紅茶に取り組むのもいい。だけど、両河内の浅蒸し緑茶をもっと大事にアピールしてよ」「カフェもいい。でも、もっと何度も訪れたくなる仕掛けを考えて。女性の目線を取り入れて」「男性客を魅了するのは技術だと思う。茶工場を公開して茶生産のプロセスの展示や実体験をさせて」「訪れるポイント同士が遠すぎる。間に仕掛けがあっていい。川遊び、茶葉運搬のトロッコ、温泉。季節ごとに違う茶産地の風景をいろんな形で提示すれば、何度も何度も訪れたくなるはず」……。

 限られた滞在時間の中、私はいつもの調子で自分の意見を懸命に伝えていた。

GREEN∞CAFEの前でメンバーに「もっと浅蒸しに自信をもって紹介して」と語りかける
茶工場の片隅で行政関係者と「茶産地ツアー」のあり方について語る