■コロナ禍を越えて、いざ出発

 2022年10月17日。成田空港第1ターミナルはガラガラであった。レストランやショップはかなりの部分が閉まっていて、まるで過疎化した地方都市のシャッター街のよう。わずかに空いているレストランに数が少ないとはいえお客が殺到するから、結果として行列ができたり店内が「密」になったりしている。

 焦ったのは書店も閉まっていることだった。僕はいつも、チェックインが終わったらゆっくりと空港内を散歩し、その旅で読む本を、書店で見てから買うのが常だったのだ。ところが成田空港内で営業している書店は第3ターミナルの一軒のみだという。仕方ないのでシャトルバスでターミナル間を移動して浅田次郎の新刊を手に入れたのだが、時間に余裕があったからできたわけで、空港が本格稼働していないうちは事前に準備するか電子書籍のほうが良さそうだ。

 そして乗り込んだZIPエアーは格安エアラインなのに機内wifiが全員無料で、充電用コンセントもついている優良航空なのであった。快適なフライトで3年ぶりのタイにまず降り立つが(ワクチン接種証明はもはや不要になっていた)、今回はトランジットである。1泊して飛行機をタイ・スマイル航空に乗り換えて、いざヒマラヤの懐へ。

 カトマンズ着陸間際、視界いっぱいに広がる茶褐色のレンガの街並みに心躍る。老朽化したトリブヴァン空港に20年前の面影を探す。そしてイミグレーションの前に、まずワクチン接種証明書のチェックブースが設けられていて緊張を覚える。とはいえ乗客のほとんどはノーマスクで、係官は書類を一瞥して終わり。

 そして入国スタンプをいただくと、ようやく旅の興奮に包まれた。荷物をピックアップし、両替とSIMカードのセットアップと、旅の始まりのシークエンスをこなし、到着ロビーを出れば、わっと群衆に囲まれる。うさん臭い客引きが次々に声をかけてくる。「ドコ行きますか!」「たくしー、ベリー安い」。あやしい日本語も飛び交う。くっくっく。これだよこれ。こういう騒動に巻き込まれたかった。南アジアの混沌に揉みくちゃにされたかったのだ。念願かなった僕はコロナ禍の終焉を感じつつ、タクシーと値段交渉をして市内に向かうのだった。

(続く!)

シャッター街みたいな成田空港のショッピングエリア
バンコク・スワンナプーム空港は成田よりずっと活気が戻ってきていた

 「越えて国境、迷ってアジア」は、アジアの国々を取材してきた1人のジャーナリストによるアジア国境越えルポだ。2022年まで「TABILISTA」で連載されていたが、「BRAVO MOUNTAIN」ではそのアーカイブをお届けしていく。