■ジープでヒマラヤの悪路を走る
朝6時。バグルンバザールのジープ乗り場に行ってみれば案の定、お客はさっぱり集まっていなかった。
“乗客がたくさん来たら出発する”という、途上国ではよくあるスタイルなのだが、僕以外にバグルンバザールからさらに奥、ガルコットに向かう人はいまのところ誰もいないようだった。
「このぶんだと7時は回るなあ」
と運転手が言うからには、たぶん8時を過ぎるだろう。なので僕はバザールをうろうろと散歩して肉屋や八百屋やサカナ屋が早朝から賑わっている様子を眺め、茶屋でのんびりチヤ(ミルクティー)とロティ(全粒粉のパン)の朝食をとり、街をぐるりとひと回りしてジープ乗り場に戻ってみれば、
「どこ行ってたんだ、さっさと出るぞ!」
と運転手が飛んできた。いつの間にやら人数が揃ったらしい。荷物を屋根の上に積んでいざ出発となったのだが、なぜ移動手段がバスでも乗り合いタクシーでもオートリキシャでもなくジープなのか、すぐに思い知った。
道路はガッタガタのダートなのだった。恐ろしく揺れる。舌を噛みそうだ。あまりに荒れているため、ほとんどスピードを出せない。それに狭く細い山道だ。ほこりで汚れ果てた窓から外を見てみれば、眼下はもう切り立ったガケ。ところどころで土砂崩れの跡を越え、浅い川となっている箇所をざばざばと横断し、少しずつ標高を上げていく。
そしてようやくビューコットの村に着いたときは、乗客一同へとへとになっていた。しかし中部ヒマラヤが間近に見えて、なかなかに気持ちがいい。