■逃した魚は大きい…… 昼を抜いてひたすら釣りを続ける

 翌日は朝から雨が細く降っていた。今回の釣行を決定した数日前には晴れ予報だったのだが、渇水気味なうえにフィッシングプレッシャーの高いこの時期、むしろ恵みの雨だとほくそ笑む。

 「向福橋」の下流の釣り場に到着すると、すでに川岸に適度に間隔を空けて釣り人がラインを伸ばしていた。しばらく見守っていたが、ロッドが曲がる様子はない。

紅葉に染まる渓流で釣れたニジマスをそっと流れに戻す

 釣りを開始すると、流下する落ち葉がフライやラインに触れてドキドキさせられる。何度かアタリと勘違いして落ち葉を釣った後、口先でついばむようなアタリと共に魚がかかった。型はそれほど大きくなく、ヘッドシェイクするニジマスの感触を味わいながらネットに招き入れた。ひとまずの一匹にほっとし、顔を上げると対岸のテンカラ師も竿を曲げていた。

 プールの上流部、対岸寄りの流れ込みが岩壁の際で作っている深みにフライを通す。水中を漂うラインが微妙にスピードを落とした瞬間、合わせてみるとヒット。

 かなりの重量感と力強さでロッドがしなり、寄せては走られを繰り返しながらのリールファイトだ。どうにか魚体が見える距離まで寄せてくると、60cmクラス! しかも張り出したヒレが美しい。けれどようやくキャッチできそうだと油断した心を読まれたのか、わずかな気の緩みはラインの緩み。百戦錬磨の良型ニジマスが見逃すはずはない。深みの奥に消えていった。

 昼には上がってランチを楽しもうと下調べしていたのだが、このままではあまりに悔しい。引くに引けなくなり食事抜きで粘ったが、結局その後は何もかからなかった。煎餅2枚だけの昼食を済ませ、今度は下流の「夕の原」へ。

■サイトフィッシング! 狙った大物がかかるが……

箒川。奥には「潜竜峡トンネル」につながる「夕の原橋」

 浅い流れが点在する岩で隔てられ、緩急幾筋もの流れが複雑に入り乱れるポイント。ここはよく入る場所なので、魚が付いている場所も把握している。入渓早々、小ぶりだが傷のない整った銀色の美しいニジマスを釣り上げることができた。写真を撮ろうとした瞬間にするりとネットから逃げていった。いわゆるオートリリースだ……。

 魚影が濃く、至るところに良型を確認できる。ただ相当スレているようで、ちょっと追っては来るものの、なかなか口を使ってくれない。上流へ移動していくと、岸際の岩盤にひときわ大きく美しいニジマスを見つけた。あの手この手で攻めてみるが、まるでプロジェクションマッピングかのように微動だにしない。そのまま「夕の原橋」のたもとまで釣り上がったが、たまにアタリはあるものの食いが浅い。魚はいっぱいいるのだけど……。

 下りの途中で先ほどの良型をチェックすると、まだ同じ場所に定位している。どうしても釣りたい。距離を詰めて完全にサイトフィッシング。わずかに口元が動いた(ような気がして)アワセるとフッキングしているではないか!

 けれど今日一番の大物だけに引きが強烈でコントロールし切れない。立っている岸際は狭くいきなり深くなっているので移動することもままならない。しばらくやり取りを続けたが、口先にかろうじて掛かっていただけのフライがついに外れた。天を仰いで大きなため息をつく。