春にあれだけ美しくさえずっていた野鳥のオスたちも、子育てが一段落する夏以降はあまり鳴かなくなる。そうなると、双眼鏡より軽い単眼鏡、超望遠レンズより接写ができるマクロレンズを山に持ち出す機会が増える。そう、狙うは至近距離で見られる昆虫たちである。
今回は、本州中部以北から東北までの低山や高山で見られる昆虫や小動物を紹介したい。
■汗だくの私たちはチョウにとってご馳走
登山経験者なら、夏山を歩いている時に、チョウが自分の腕や肩にとまってきた経験があるのではないか。チョウを観察していると、細長い口で皮膚をトントンしている。なぜそんな行動をとるかといえば、汗の水分や、水分に含まれる塩分などのミネラル、タンパク質などを食べるからだ。
私の経験では、ヒョウモンチョウの仲間、タテハチョウの仲間がよくとまる気がする。こうしたチョウは、花の蜜だけではなく、鳥や哺乳類のフンにもよく集まる。フンも汗と同じく重要な食べものなのだ。だから、腕にとまったチョウを嬉しげに見ている人を見ると、その前はどこにとまっていたのかな……という思いが頭を掠め、少しだけ複雑な気持ちになる。
■地面を這う甲虫
登山道で見られるのは、フンに群がるのはチョウだけではない。地面を這う様々な甲虫の観察にもうってつけだ。
例えば、オサムシの仲間。その中でもミミズを好んで食べるアオオサムシは、緑色の金属光沢がある翅に点々と模様があるのでわかりやすい。あるいは動物のフンに集まるフンチュウの仲間。動物が消化できなかったものを食べて土に戻すことから、分解者として重要な存在だ。
他にも出会うと嬉しいのはハンミョウの仲間。メタリックな虹色をしたナミハンミョウは低地でも見られるが、高山では地味な色をしているものが多い。コマクサが咲いているような砂礫地でよく見かけるのが、ミヤマハンミョウだ。そして、名前にハンミョウとついているがハンミョウとは違う仲間のツチハンミョウ。鈍く青い光沢を持った甲虫で、かぶれる毒を持っている。決して触らないようにしよう。