■虫なのに避暑をするアキアカネ

 夏から初秋にかけて、高原や高山で黄色みが強いオレンジ色のトンボが集団で舞っていることがある。近くに水辺がないのにどこから来たのだろう? じつはこのトンボ、秋に低地で普通に見られるアキアカネなのだが、なかなかダイナミックな一生を送っている。

 まず、秋に田んぼなどの水辺で産卵し、卵で冬を過ごす。春になって田んぼに水が入ると孵化(ふか)してヤゴとなり、3ヶ月ほど水中のプランクトンなどを食べながら成長する。一説によれば10回以上脱皮して初夏にトンボとなるのだが、まだその頃は黄色っぽい色をしている。

8月後半、秋田駒ケ岳の登山道ではアキアカネの集団が舞っていた

 子どもの頃、アキアカネを捕まえた方ならわかるかもしれないが、アキアカネを入れたケースを日向に放置してしまうと、すぐひっくり返ってしまわなかっただろうか? じつはアキアカネは暑さにとても弱いため、7、8、9月の暑い時期は涼しい標高の高い場所に移動し、主に飛んでいる小さな昆虫を食べて過ごす。それゆえ夏の登山では集団で舞うアキアカネに出くわすことが多いのだ。

 そして夏が終わる頃、真っ赤に色づいたアキアカネは下山して交尾と産卵をして次世代を残したら、1年という短い一生を終える。

ナツアカネ(左)は矢印部分の黒い模様が平らで、アキアカネ(右)の黒い模様はとがっている傾向にある

■海を渡るアサギマダラ

 お盆を過ぎると、山では秋の花が咲き始める。その中でも、秋の七草であるフジバカマに似た、ヨツバヒヨドリやヒヨドリバナなど、キク科の花にはアサギマダラが吸蜜によく訪れる。

 アサギマダラの大きさは翅を広げると10cmくらい。あまり羽ばたかず、微風をとらえてスーッと流れるように飛ぶ姿はとても優雅だ。この、風をとらえる飛び方が渡りと大いに関係していると思うのだが、アサギマダラは海を越えて移動をするチョウだ。2011年には和歌山から高知を経て香港まで、約2500kmも移動したことが明らかになった。

ヨツバヒヨドリやヒヨドリバナの花によく訪れるアサギマダラ

 なぜそんなことがわかるかというと、1980年頃からはじまった市民参加型マーキング調査のおかげだ。普通、チョウの翅には鱗粉がびっしりついているのだが、アサギマダラの翅には青白いプラスチックのような部分があり、鱗粉がついてない。調査に参加している人はアサギマダラを捕まえ、そこに油性マジックで位置、日付、自分の名前などを書いてまた放つ。するとどこかで誰かが捕まえて情報を共有するので、このような生態が明らかになった。そうした活動の結果、春に南で発生した個体が数世代かけて本州・北海道まで北上し、秋になると一気に2000km以上も南下する個体がいることが明らかになったのだ。

アサギマダラの幼虫が有毒のつる植物キジョランを食べたあと。自ら有毒になることで鳥から身を守っている

 ということで、今回は夏から初秋にかけて、昆虫を愛でる山旅を紹介した。最近はスマホでも十分精細な写真が撮れるようになったし、「BIOME」など、AIが種をある程度判別してくれるアプリや、「いきものログ」など、自分の生きもの情報をみんなで共有して調査に参加できる仕組みもある。図鑑などなくてもそういったサービスをうまく使うと自然の解像度が上がるのでおすすめだ。

 また、私のように写真を撮るだけではなく、昆虫採集を目的とする人は注意して欲しいことがある。日本の自然公園(国立公園、国定公園、都道府県立自然公園)の中で、特別地域に指定されている場所は、その地域で指定された動植物をとったり放したりすることが禁止されている。その中でも、特別保護地区に指定された場所ではすべての動植物が対象となる。そういった場所で昆虫採集をしてしまうと犯罪になってしまうので、自然を守るためだけでなく、自分を守るためにも、事前にビジターセンターに立ち寄ったり、行政の環境課に電話をして情報収集をして欲しい。