■タイムスリップしたかのよう! 更けゆく夏の夜
釣りを終えて宿に戻り、さっとひと風呂浴びた。夕食を済ませ、部屋に戻り畳に寝転びながら蛍光灯を見上げる。川のせせらぎに合わせるようにヒグラシが切なげに鳴いている。ニイニイゼミの声も昼間の名残りでかすかに混ざっている。
少々蒸し暑くなってきたので扇風機を借りる。使用料金300円が安いのか高いのかわからないが、一気に快適になった。窓の外が暗い闇に包まれる頃、河鹿(カジカガエル)の澄んだソプラノが響いてきた。なんだか、タイムスリップして昔懐かしい日本の夏に浸っている気分だ。宮沢賢治もこんな夏を過ごしていたのだろうか。
どうやら明日は雨になりそうだ。残念だが釣りは諦めることにした……。
■雨ニモマケズ……
翌日は花巻市の町はずれにある宮沢賢治の詩碑を訪ねてみることにした。賢治が農民に化学や土壌等の講義をした「羅須地人協会(らすちじんきょうかい)」跡地に建っている。
そぼ降る雨のせいか、森の中はどこか神秘的な雰囲気すら漂っていた。足元の道は丁寧に手入れされていて歩きやすい。あいにくの空模様だが、それでもポツリポツリと訪れる人がいる。意外なほど若い人が多かった。
『下ノ畑ニ居リマス』の書体がどこか微笑ましい。かつて宮沢賢治の畑があったという、北上川に面した土地を見下ろしてみた。ここからは天気が良ければ早池峰山も望める。
雨滴に『雨ニモマケズ』が鈍く光っている。どうやら明日は天気が回復しそうだ。