日本アルプスの北部に位置する飛騨山脈は標高3,000m級の日本を代表する山々が連なる。一般的には「北アルプス」という呼び名で親しまれ、世の登山者憧れの山脈だ。ここには日本の標高第三位の奥穂高岳(標高3,190m)や槍のように尖ったピークが象徴的な槍ヶ岳(標高3,180m)をはじめとした、日本屈指の高山が多い。それぞれのピーク同士は繋がっていて、どこまでも続く荒涼とした稜線はハイカーの心くすぐる光景だ。
主だった山の頂上は森林限界を超えているので山上からは大パノラマが望め、これぞトレッキングという眺望。景色だけでなく、色とりどりの高山植物が咲き誇るお花畑や夏でも溶けない雪渓など北アルプス特有の山歩きも出来る。そんな魅力溢れるエリアにおいて、今こそ登りたい! と熱く推薦する山を編集部が厳選して6座をピックアップ。1座ずつ全6回の連載としてお届けする。第2回目は360度の大パノラマの絶景が臨める「薬師岳」。自分のレベルに合わせてこの夏、チャレンジしてほしい。
■[富山県] 薬師岳(やくしだけ) 標高:2,926m 行程:1泊2日
歩行時間:13時間40分
技術レベル:★☆☆☆☆
体力レベル:★★★☆☆
【オススメポイント】
1.山頂は360度の大パノラマ
2.見晴らしのいい草原
3.北アルプス深部の百名山
●北アルプス深部の絶景の山
北アルプス中央部に位置する薬師岳。標高は2,926m、百名山に数えられる山だ。
山は、立山連峰からみるとちょうど南端に存在し、黒部川渓谷を挟み、頂上部からは水晶岳や鷲羽岳、黒部五郎岳が目の前に迫る。遠くには槍ヶ岳、穂高の峰々、白馬連山までも望め、北アルプスを眺める絶景地としても評される。
立山連峰からの稜線に続く山として、周囲からの景観は穏やかな山体として感じられるが、取り付きとなる標高2,330mの太郎平小屋からは、登高約3時間、標高差は600m余りの登りごたえと存在感を持ち合わせる。
●ルートガイド
薬師岳への一般的なアプローチは、富山側の折立がベース。日帰りは難しいので最低でも1泊2日の日程を組みたい。
駐車場、バス停がある標高1,350mの折立ヒュッテから太郎平小屋までは、標高差1,000m、約5時間という長い道のりだ。樹林帯を抜け、見晴らしのいい草原を行くとやがて木道へ。穏やかな傾斜だが時間は要する。
1泊目は太郎平小屋か、そこからさらに20分の太郎平小屋キャンプ場(旧薬師峠キャンプ場)がベースとなる。太郎平小屋からさらに2時間の上りを要する薬師岳山荘(標高2,701m)を拠点とするのも可能だ。頂上までは太郎平小屋から3時間、薬師岳山荘からは1時間足らずだ。
晴れた日の山頂からは前述通り素晴らしい景観が360度広がる。西側の日本海から目線を回していくと、飛騨山脈の峰々が連なる、壮大な大自然を実感できるはずだ。
頂上直下は、金作谷、中央、南鐐と3つのカールがまるでスプーンで削ったかのように下方へ整然と延びている。深く黒部川に落ち込む山体の流れも見ごたえがある。
薬師岳からは遠く立山まで稜線路が続くが、薬師岳を目指す場合は来た道をそのまま戻る。頂上部直下から薬師岳山荘にいたる部分は、白っぽいザレ道で滑りやすいので注意が必要だ。
下りは折立まで約6時間の長丁場、上りと合わせると1日9時間にも及ぶ行程になるので、体調に合わせてしっかり計画を立てて臨もう。
太郎平に連泊すれば、体力的にも余裕が生まれる。往復2時間強で行ける北ノ俣岳を組み合わせて2泊3日の行程とするのもいい。
●絶景ポイント:高原にたたずむ太郎平小屋
薬師岳登山のベースとなる太郎平小屋は太郎山のすぐそば 、標高2,330mの位置にある。背の低い緑の中にぽつんと佇んでいる。宿泊の段取りを済ませたら一度荷物をおいて、太郎山に登ることをオススメしたい。太郎山からは、美しい緑に囲まれて建つ小屋が際立ち、幻想的な景色を生み出している。その向こうには薬師岳のピークがはっきりと見え、小屋と山頂の両方が望めるのだ。