■氷河の上では夏でもスキー場がオープン

 断崖絶壁の南斜面とは打って変わり、北斜面は銀世界が広がるスキー場となっていた。どうやら、ここが氷河のようだ。

 そもそも氷河はどんな場所にどうやってできるのだろう。大きく分けると、南極やグリーンランドのような平らな場所か、アルプスやヒマラヤのような山岳地帯に氷河は形成される。ちなみに近年の研究では日本の剱岳、立山、鹿島槍といった山岳地帯にも、小規模ではあるが、氷河が存在することが明らかになっている。

 いずれにせよ、氷河は緯度か標高が高い場所にあるようだ。そうした地域において特に重要なのは、降った雪が夏に溶けきらず毎年蓄積するということだろう。毎年蓄積すれば重みで雪も氷になる。氷の厚みが増せば増すほど、底の氷にかかる圧力は凄まじくなる。その凄まじい圧力によって、氷が下にゆっくり流動し始める。これが氷河だ。もし氷が流動していなければ、それは雪渓と見なされるようだ。

 標高が3000mもないのに、ダッハシュタイ山脈に氷河があるということは、降雪量の多さ、気温の低さ、日当たりが悪い北斜面など、様々な条件が整ったからだろう。こんな地球の歴史と大自然を感じられるダッハシュタイン山脈であるが、観光のための開発の歴史は古く、なんと1950年頃にはゴンドラができている。きっと、この山に挑戦し、大いに楽しんできた人々の営みこそ価値があるとみなされたことが、スキー場のある世界遺産が生まれた理由なのだろう。

北斜面の氷河にできたスキー場。左奥の筋群はクロスカントリースキーコース

 今回は、オーストリア共和国のシュタイアーマルク州にある、ダハシュタイン山脈を紹介した。地球の歴史を生々しく感じる石灰岩の山脈や氷河は圧倒的な体験だった。一方、タイプは違うが、ラムゾウという麓の集落もとても居心地が良かった。きっと、看板が少なく、伝統的な建築様式に則ったホテルが多く、森も草原も良い意味で人の手が入っており、集落全体がアルプスの伝統的景観を大切にしているからだと思う。訪れた季節も、ちょうど良かった。

 世界遺産の山脈と、伝統を大切にする集落体験、ぜひ旅先としておすすめしたい。