気がつけば、首都圏は春の匂いに満ちている。ここのところ雨の日が増えてきて庭の草花の育ちが早いことや、ときおり強く吹く風が生暖かく感じること、陽が少しずつ長くなってきたことも、春の訪れを実感するのに十分な変化だ。加えて、ぼくにとっては花粉もそのひとつだけれど……。ともあれ、それらを合図にいよいよ日本各地が桜の季節を迎えるわけだ。

 お花見ハイクの計画を立てるとき、ぼくが真っ先に思うのは、頂に咲く桜が印象的な山のこと。山頂といえば絶景を期待するけれど、この時期ばかりは景色を遮るように満開に咲く桜に目も心も奪われてしまう。

 そこで今回は「山頂の桜を楽しむことができる低山」をテーマに、駿河湾と富士山を望む沼津アルプスを前編で、奥武蔵と奥多摩をつなぐ棒ノ嶺(棒ノ折山)を後編で取り上げたい。

■低山ながら歩きごたえのある「沼津アルプス」                                                

漲る新緑に埋もれる可憐な山桜。桜の季節、毎年のようにこの光景を思い出す

 沼津アルプスは静浦山地の一部で、静岡県沼津市のほぼ中央に位置する低い山々の連なりだ。標高400mに満たないような山が南北に立ち並ぶさまは屏風のようで、駿河湾に面する沼津の沿岸部を守るようにしてそびえ立っている。ダイビングの名所として知られる大瀬崎から眺めるその姿は、まるで龍が横たわっているかのようだ。

大瀬崎から北東に望む沼津アルプス。まるで龍の背のように連なっている

 この“アルプス”を構成する山々を縦走するのが、ぼくのお気に入り。南から茶臼山、日守山(大嵐山)、大平山、鷲頭山、小鷲頭山、志下山、徳倉山、横山、香貫山と北上していくコースは歩きごたえがあってよい。最高地点は392mの鷲頭山。とはいえアップダウンがなかなか激しく、すべてを縦走すると獲得標高は1000mを軽く越える。

 熟練者にとってはトレーニングコースとしても最適だし、初心者なら“北アルプス”に位置する香貫山から徳倉山を中心としたコースのみを歩いても楽しい。コースの途中に峠が多く、そこから麓にエスケープすることもできるため、さまざまなコース計画が立てられる。それがレベルを問わず、多くのハイカーを満足させてくれる理由のひとつでもあるのだ。