長野県の天竜川上流域の郷土食「ざざ虫」のシーズンがやってきた。ざざ虫ビギナーの筆者が、ざざ虫を研究している地元高校生たちのアドバイスのもと、ざざ虫採集&アウトドアクッキングに挑戦した模様をお届けしよう。

■伊那谷のソウルフード「ざざ虫」って、一体なに?

40年以上ざざ虫漁を行っているベテラン漁師と高校生たちが、天竜川上流域でざざ虫採集を行っているところ(撮影:上伊那農業高校コミュニティデザイン科グローカルコース)

 スキーにはまり過ぎて「雪山の近くに住みたい」と信州へ移住してきた筆者としては、アルプスの山々が雪に覆われる冬は、一年のなかでもっとも心が沸き立つ季節だ。とくに雪山が賑わう12~2月、山麓でもシーズンを迎えるアクティビティがある。それが、「ざざ虫獲り」だ。

 以前、ブラボーマウンテンの記事(https://bravo-m.futabanet.jp/articles/-/120032)でも取り上げられたこの「ざざ虫」は、「トビゲラ」「カワゲラ」「ヘビトンボ」という3種類の水生昆虫の幼虫の総称。これらの虫自体は全国あちこちの河川に生息しているわけだが、中央アルプス南アルプスに挟まれ、その間を天竜川が流れる長野県の伊那谷では、江戸時代から食用として重宝されてきた歴史がある。ざざ虫という呼称もこの地域独自のもので、「ザーザー」という天竜川の流れる音が由来となっているという。

南アルプス側の里山から眺めた伊那谷。ざざ虫を食用とする文化が残るのは、「上伊那」と呼ばれる辰野町から中川村あたりまでの天竜川上流域だ

 伊那谷に暮らし始めて2年以上経つが、筆者はまだ、このざざ虫を食べたこともないどころか見たこともなかった。しかし地域に溶け込むためには、この食文化を体験しないわけにはいかない。そこで、ざざ虫を研究しているという「上伊那農業高校」のコミュニティデザイン科グローカルコースを訪ね、昆虫食グループの生徒たちにざざ虫について教えてもらうことにした。

授業の一環でざざ虫の商品開発や養殖などを行っている、上伊那農業高校コミュニティデザイン科グローカルコース、昆虫食グループのみなさん。ざざ虫ポーズをバシっと決めてくれた

■ざざ虫は、“高タンパク&低脂質”なスーパーフード

一番上に乗っている大きな幼虫が「ヘビトンボ」。下にいる、ちぎりパンのような形の幼虫が「トビゲラ」。(撮影:上伊那農業高校コミュニティデザイン科グローカルコース)

 そもそもなぜ、伊那谷でざざ虫を食べる文化が続いてきたのか。

 「大きな理由としては、山々に囲まれた伊那谷に暮らす人々にとって、ざざ虫が貴重なタンパク源のひとつだったことが挙げられます。調べたところ、100gあたり55.9gとタンパク質の割合が牛や豚などほかの動物よりも多いようです」

 昆虫食グループに所属する高校3年生の大槻海伶さんが、笑顔で教えてくれた。大槻さんいわく、ざざ虫は高タンパクでありながら脂質は低く、養殖するうえでの生産効率も高いので、将来的にフードロスを解決しうるスーパーフードとして注目されつつあるようだ。

 「加えて伊那谷では、ざざ虫が”水産物”として扱われてきたこと、アルプスを源流とする天竜川が綺麗でミネラル豊富なので味そのものがおいしかったことが、食文化として根付いた理由ではないかと言われています。今は数が減ってきているのですが、冬の副業としてざざ虫漁を行う現役の漁師さんもいらっしゃいますよ」

 ざざ虫が、産業として成り立っているというのは驚きだ。では、いつでも獲れるはずのざざ虫のシーズンが“冬”と言われているのはなぜか。

 「冬はサナギになる前なので、ざざ虫が脂肪を多く蓄えています。また冬の水は冷たいので、川臭さの原因である藻などの流下藻類をざざ虫が食べなくなる。なので、冬のざざ虫はとくにおいしいんです」

伊那市の直売所「グリーンファーム」に販売されている、ざざ虫のボイル。ほか、イナゴや蜂の子の加工品も販売されていた

 なるほど~!  勉強になります!

 伊那谷でざざ虫漁を行うためには、管轄する「天竜川漁業協同組合(漁協)」の組合員になって「虫踏許可証」を取得する必要があり、漁期も12月から2月と決まっている。ただそれは、大量に採集して販売する場合のこと。あくまでレジャーとして、ざざ虫をちょこっと獲って消費するぶんには、許可を得る必要はないとのことだ。

 高校生たちの、ざざ虫を語るときのキラキラした眼差しに感化され、ざざ虫獲りに挑戦することを決意した私。さっそく、真冬の天竜川へ向かった。