ゲテモノ? 気持ち悪い? 昆虫やその幼虫、ヘビ、カエル...... 山や川に生きる生き物たち。食べてみたら意外と美味しいものも多い。普段口にしているものも、きっと誰かが獲ってさばいてくれているはずだ。スローフードライフ。自分で獲って食べる大切さ。「命を奪って生きている・生かされている」ことを感じよう!
 今回はクロカワムシを獲って食べてみた。『ざざ虫』として長野県の天竜川上流域ではスーパーでも売られている郷土食だ。山釣りの傍ら、山菜やキノコはもちろんのこと、源流域に生息する生物はいろいろ食べてきた。けれどクロカワムシはまだ食べていなかったために、非常に気になっていたのだ。いつも釣りに行くホームリバー、犀川に豊富に生息しているので、さっそく獲りに行ってみた。収穫は完璧! 気になるお味の方は......

■クロカワムシとは?

ヒゲナガカワトビケラのクロカワムシ。苦手な人には見るだけでもインパクトが強すぎる!?

 『ざざ虫』とは長野県の南信地方・天竜川上流域では、川の中の石の裏に生息するトビケラやカワゲラ、ヘビトンボ、カゲロウなど、水生昆虫の幼虫の総称である。そのうち、特にトビケラの幼虫であるクロカワムシは郷土食としてメインの存在だ。「名は体を表す」の通り、暗緑色から黒い色をしていて見た目はイモムシ? ビジュアルはお世辞にも食欲が進むようなものではない。成虫はどうかというと、まるで蛾...... 人間に害はないのだが、見た目で気持ち悪がられてしまう存在だ。脱皮を繰り返しながら長い時間水底の石の裏で過ごし、危険を冒して水から出て成虫に。けれど餌を食べる能力はなく、数時間から数日で寿命を終えてしまう一生なのが切ない。

日中、川沿いの草の陰で休むヒゲナガカワトビケラ

 ちなみにフライフィッシング用語でこの虫はカディスと呼ばれ、幼虫はラーバ、変態途中をピューパ、成虫はカディスアダルトと言う。何種類かいるトビケラのうち、今回狙うのはヒゲナガカワトビケラ(以後ヒゲナガ)の幼虫のクロカワムシだ。ヒゲナガはトビケラの中でもかなり大型で、当然幼虫も大きいので食べ応えがある。

■どこにいるの?

長野県、犀川本流。松本市と長野市の間は山間を縫うように流れ、ニジマスやブラウントラウトなど、大物のトラウト目当ての釣り人に人気だ

 トビケラの中でもヒゲナガのクロカワムシが生息するのは、日本では河川の上・中流域のいわゆる渓流や里川が主になる。これらの川では水質や水量の安定度などが、ある程度の環境指標にもなっているらしいが、ヒゲナガのクロカワムシはそうした河川の流れ、特に瀬の中の石の下で小さな礫をつなぎ合わせた巣を作り、その中に生息しているのだ。まるでミノムシ状態で、外敵から身を守りつつも、流されてしまわないための手段なのだろう。  

 自然界の食物連鎖は絶対で、捕食する側とされる側は切っても切れない関係だ。餌がいないところには魚もいない。ヒゲナガがいる=トラウトがいる(もちろんトラウトたちは、ヒゲナガ以外も食べているが......)! さらにそれを狙う釣り人も! つまり解禁中、常に釣り人(ただし鮎やブラックバス狙いはまた別)が絶えないような川が狙い目だ。

ヒゲナガのラーバ(クロカワムシ)を模したフライ(毛バリ)で釣れた犀川のブラウントラウト

 羽化したばかりの成虫が水面を移動し、川面を飛び交うタイミングにはトラウト(鱒族の魚の総称)の動きも活発化する。釣り人としては見逃せない存在で、僕もホームリバーの犀川ではその羽化のタイミングを注意深く観察している。つまり、クロカワムシの居場所は熟知しているのだ。さっそく犀川本流へと向かった。

■いざ川へ採集へ

大漁だった石の裏。礫を集めた巣とクロカワムシたち

 ひざ下くらいの深さ。程よく脛に感じる流れの圧。その流れを軽く変化させているような石に目星を付けて、自信満々で持ち上げて裏返す。いたいた...... 小さなカゲロウの幼虫たちが慌てて逃げていく。その後に残った礫を寄せ集めて作った巣。そこから部分的に見えているクロカワムシたち。完全に隠れている個体もいた。ちょうど住みやすい石だったようで、いきなり数匹手にすることができた。なるべく大きめの個体をピックアップして、そっと石を流れに戻す。その後もほぼ百発百中、あっという間に20匹くらいを獲ることができた。なんて歩留まりのいい採集だろう。釣りより上手いかも......
 ひとつ注意したいのは、どの川でも自由にクロカワムシを採取できるとは限らないこと。河川によっては漁業権の対象になっている場合がある。例えば、前述した長野県南信地方の天竜川漁協では、漁期も決まっており権利も必要になる。もし記事を読んで興味がある、獲りに行きたいと思ったら、目的の川を管轄する漁協の遊漁規則を調べておこう。
 ひっくり返した石は、お目当てのクロカワムシが獲れても獲れなくても、なるべく元の状態になるように流れに帰してほしい。それが最低限のマナーかと思っている。