■民話を知ると山からの景色が違ってみえる

麦草峠から北横岳に向かう途中の展望台から見た中央アルプス。平坦な農地にある小山が大泉山と小泉山。中央の横に長い山塊の右に突きでたピークが守屋山で、この山裾の右に諏訪湖がある

 ちなみに、でいだらぼっちが八ヶ岳を削って諏訪湖を埋めようとした民話には、こんなエピソードがある。削った土を運ぶ際、巨人は「もっこ」という、天秤棒の両側にザルを吊るした運搬道具を使用した。しかし、それぞれの重さが違ったため、途中でバランスを崩した、もしくは天秤棒が折れてしまったことで、土を落としてしまったという。ふたつの土は地面にくっつき、それが八ヶ岳西麓の里山に並んだ大泉山と小泉山になったという話だ。八ヶ岳から西麓を見るとき、この山もつい探してしまう。集落や農地が広がる平らな里に、本当に土が落とされたように木が茂った小山が2つ、こんもりとある。八ヶ岳に近いほうが大泉山、諏訪湖に近いほうが小泉山だ。

 八ヶ岳には見晴らしのよい峰が多く、最高峰の赤岳からは富士山や奥秩父、南アルプス、中央アルプス、北アルプスなどの名峰を一望できる。絶景を前に、遠くの景色ばかりに目を奪われがちだが、ここで紹介した民話を思い出しながら、少し視線を下に向けて山麓の景色にも目を向けてほしい。