■真っ白な砂礫の稜線にド派手なピンクのタカネビランジが咲く「鳳凰三山」

 まずは、タカネビランジの山といえば、鳳凰三山だろう。稜線上には燕岳のように花崗岩で真っ白な景色が広がり、南アルプスで一番個性的な山ではないだろうか。最高峰の「観音岳」、庭園風情のある「薬師岳」、そして、圧倒的な存在感を放つオベリスクが聳える「地蔵岳」。この3座を繋ぐ真っ白な砂の稜線に、8月になるとたくさんのピンク色がそこらかしこに落ちている光景は、他の山では出会えないものだろう。大きな株になると、10以上の花が咲いていて、その密集具合に驚かされる。

 そんな鳳凰三山に行くための一番楽なコースは、夜叉神峠(やしゃじんとうげ)起点のピストンだろう。薬師岳までは単調な針葉樹林の中を登るコースであるが、緩やかに登っていくので、鳳凰の他の登山道よりは比較的楽に登れる。途中にはテント場と水場のある南御室小屋(みなみおむろごや)と、稜線直下に建つ薬師岳小屋の2つの小屋があるので、体力に合わせていろいろな予定を組めるのもいい。

 なにより、稜線のお花たちを観察しながら歩く際に、山小屋やテントに荷物をデポして稜線を歩く計画が立てやすいのも重要なポイントだ。可憐な花は足下に咲くため、立ち止まってはしゃがむ動作が多くなる。空身でいろいろな角度で観察してみて欲しい。鳳凰三山の稜線はタカネビランジだけではない魅力がある山だ。富士山の展望は、南アルプスでも屈指の美しさを誇る。白峰三山が間近に迫る展望の中を歩く気持ち良さは格別だ。

 登山道傍には、風雪にねじ曲がったダケカンバやカラマツが日本庭園を作り出していて、変化に富んだ稜線である。お目当てのタカネビランジは、観音岳から地蔵岳にかけての稜線に多く咲いている。初めて見ると、砂地にこんなに鮮やかな花が咲くものかと、感動するに違いない。

オベリスクと呼ばれる地蔵岳の岩峰周辺にもたくさんのタカネビランジが咲いている