7月に入った最初の週末、風がそよぐ湿原に白い花が無数にたなびき、幻想的な風景を作り出している。あれはなんの花だろうか? 近くに寄ってみるとそれは花ではなく綿毛だった。あたり一面の白い綿毛はワタスゲという。そう、今年もまた白い妖精が踊るトレイルを歩くときが来たのだ!

 ワタスゲは本州中部以北から北海道までの、高山帯や亜高山帯の高層湿原に分布している。夏の高山植物の代表の一つでもある。花の時は地味というよりは、妖精が手にしたら、さながら「武器になるんじゃね?」と思わせるような、棍棒のようなとげとげしい様相をしている。さほど目立つ花でもないのだが、6月から8月にかけて綿毛のような実にその姿を変え、群生するその姿は草原を踊る妖精のようである。

 昨年はこの時期に、お隣、志賀高原の志賀山・鉢山のトレイルを歩いてみたが最高だった。今回は日本で最も高いところを走る国道292号線から、ラムサール条約に登録されている「芳ヶ平湿原」を歩きに訪れてみた。

■ラムサール条約と芳ヶ平とは

国道292号線、最高地点から望む芳ヶ平

 ラムサール条約について。1971年にイランのラムサールで開催された「湿地及び水鳥の保全のための国際会議」において「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」が採択された。この条約は、開催地にちなんで一般に「ラムサール条約」と呼ばれている。その目的は、「保全・再生」「賢い利用」「交流・学習」と言われている。貴重な生態系を「保全・再生」しつつ、そこから得られる恵みを「賢明な利用」として活用し、「交流・学習」を通して広めていくことが重視されている。日本では、ここのほかにも北海道の釧路湿原など、他にも多くの湿原が条約に登録されている。

芳ヶ平湿原のワタスゲたち

 芳ヶ平湿原は群馬県の北西部に位置し、中之条町と草津町に広がる湿地群。草津白根山(標高2,160m)の火山活動に大きく影響を受け形成された湿地、河川、池沼群だ。標高2,160mの草津白根山湯釜をはじめ、標高約1,800mの芳ヶ平湿原、大平湿原、平兵衛池、大池、水池、標高約1,200mの「チャツボミゴケ公園」までをつなぐ湿地群から成り立っている。湿地群にはワタスゲをはじめ様々な高山植物や天然記念物であるニホンカモシカや日本固有種であるモリアオガエルや東アジア最大級のチャツボミゴケ群落など世界的に重要な生態系が存在している。

車窓から眺める草津白根山

 草津白根山は数年前に噴火しており、現在は火口周辺の入山は規制されている。今なお活発に活動しており、緑がまぶしい景色のすぐ横に荒涼な景色があるさまに少し畏怖の念を感じるが、大地の鳴動と自然の神秘が感じられる。火山情報は訪れる前に調べておきたい。