■縦走二日目。いよいよ南アルプス最大のお花畑が現れる

赤石岳と前岳南東斜面のお花畑。お花畑の大きさがお分かりいただけるだろう

 中岳あたりは少しお花が静かになり、前岳のT字路から荒川小屋へ下り始める。

 中岳のカールを横目に、トラバースしながら下っていくと、最初の小さな尾根からは見えていなかった谷へと乗っ越す。すると、突如として現れるお花畑に、言葉を失うのは筆者だけではないはずだ。

 稜線直下までの広大なカール一面を、シナノキンバイの黄色が埋め尽くす圧巻の光景。その中を登山道がゆるりと下っている。上から眺めれば、南側に聳える巨大な赤石岳に引けを取らないお花畑との対比がいい。下から見上げれば、空へと咲き続くお花畑に飲み込まれそうだ。

 じっくり観察すると、ハクサンイチゲやショウジョウバカマ、ハクサンチドリやクロユリが咲き乱れ、他にもあげたらきりがない。ここから荒川小屋までは近い。荷物を下ろして、心行くまで堪能したい。なんてたって、会いに来るのに一泊ないし二泊もかかる、南アルプスの中でも、核心部にあるお花畑だから。

2021年はハクサンイチゲがシナノキンバイより多く咲いていて、白いお花畑が現れた。山行日:2021年7月6日

 座り込んで眺めているうちに、次第にガスの中に赤石岳が消えていく。気付けば、お花畑の表情も変わっていて、こんなにゆっくり眺められるお花畑も珍しい。

 お花畑から30分ほど歩くと荒川小屋に着く。こちらも2021年は営業がお休みで、冬期解放小屋かテントでの宿泊となる。水も豊富に湧く快適な宿で一泊してから、今一度、お花畑を見ながら千枚岳経由で下山してもいいと思う。

 もちろん、赤石岳を経て、大倉尾根で下山してもいい。赤石岳周辺や北沢源頭部にもお花畑が広がるからだ。

 ただ、荒川のお花畑は何度でも眺めたい気にさせる。荒川小屋に泊まった翌朝、僕は今一度、荒川三山へと登り返し始めた。朝日に照らし出されたお花畑も素晴らしいに違いない。