■再度山を“ふたたびさん”と読む理由

空海が二度お詣りしたと伝わる霊場、大龍寺。ここから「大師道」で元町へ下山する

 ところで、この山が「ふたたびさん」と呼ばれる理由が面白い。古くは摩尼山(まにさん)と呼ばれたこの山に、中国(唐)に渡る前の若き空海が訪れ、航海の無事と学問の成就を祈って修行した。その後、唐から無事に帰国したことと学問を修めたことのお礼をするために再び訪れたという。これが「ふたたびさん(再度山)」の由来となった。

 ちなみに、仏教において学問とは「法」とも言い換えられる。法を修めた、つまりこれが「修法ヶ原」の由来でもある。つい先ほど甘美なクリームソーダによって腰を砕かれ、あやうく弱音を吐きそうになったあの場所のことだ。片や修行、片や休憩。名僧になる人物と、単なる甘党ハイカーとの雲泥の差を見せつけられた思いだ。

空海の手彫りによると伝わる「亀石」は、山頂直下の磐座にある

 とはいえ、この山で心願成就を祈り、それを達成した暁には、空海に倣ってお礼に登るのが気分というものだろう。単なる甘党ハイカーにだって、それくらいのことはできる。ほんの小さな願いの成就でも、ぼくが折に触れて再度三度とお礼に訪れているのは、そんな理由からなのだ。

■ヴィーナスブリッジで眺めるブラボーな夕景

諏訪山のヴィーナスブリッジから眺める神戸市街地は、地元の人にも観光客にも人気のスポット

 空海こと弘法大師がお詣りの際に歩いた「大師道」が、再度谷の底についている。ささやかに流れる水の音に励まされながら、大龍寺から元町まで下山できる道だ。

 下山後、諏訪山児童公園の西端にある大師道の碑を見て帰るもよし、県庁前駅から地下鉄で2駅の新神戸駅に向かうもよし。新幹線に乗ってしまえば、東京までひと眠りで着いてしまう。

黄昏の神戸市街地に、少しずつ町と港の明かりが灯る。ここまで来たらゴールは目の前

 その大師道で下山する際に立ち寄りたいのが、諏訪山のヴィーナスブリッジ。再度山の日帰りハイクの締めくくりに、ここから眺めるブラボーな夕景は相応しい。時間的にも、ちょうど帳の下りる前のいいタイミング。街と港に明かりが灯り始める頃合いだ。

 日がな一日かけて遊んだ再度山に別れを告げて新幹線に乗るまで、まだまだ時間に余裕はある。ざっと10km歩いたご褒美だ、ちょっと奮発して神戸牛でも食べて帰るなんてどうだろう。まあまあ高いけど、個人的には水道筋商店街の「大栄」で、もう一度だけあのステーキを食べたいと思っていたのだ。新幹線の最終は21時過ぎだから、うまく乗り継げば間に合う。さあ、どうする、おれ……。

水道筋商店街の名店「神戸 大栄」のステーキ、一度はいっときましょう!